パンデミックは、日本の将来にどのような影響を及ぼすか

Q:米中関係の緊迫化が増すと、日本にどのような影響が及びますか。そして、日本はそれに対し、どのように対処すべきでしょうか。

A:米中関係がいまより厳しいものになれば、日本にとって実に危険な状況になることは明らかだ。言うまでもなく、日本は米国の側に付いているが、中国との関わりも非常に深い。安倍晋三首相はコロナ危機の景気刺激策を通し、日本企業が中国市場への依存度を減らせるよう、すでに動き始めている。

安倍首相のコロナ対応には一定の評価を示したブレマー氏。安定政権がもたらす経済的な効能もあるという。
安倍首相のコロナ対応には一定の評価を示したブレマー氏。安定政権がもたらす経済的な効能もあるという。(毎日新聞社/AFLO=写真)

だが、経済やテクノロジーの分野で中国の重要性が高まる一方である点を考えると、日本にとって、米中関係の緊迫化はダウンサイドのリスクになる。とはいえ、日本の内政は心配していない。日本は非常に安定した国だ。

例えば、日本政府が目指す、AIやロボットを駆使したデジタル変革による未来社会「Society 5.0」というコンセプトを見ると、日本は、脱工業化革命が社会にもたらす問題にうまく取り組んでいることがわかる。

Q:パンデミックは、日本の将来にどのような影響を及ぼすと思いますか。

A:コロナ危機が米国と日本に与える影響は異質なものだ。米国国内は、社会の分裂や脆弱性、政治の二極化のせいで、日本国内よりはるかに分断されている。パンデミックが米国に引き起こす問題は、国内に関するものが多い。

一方、日本に関する懸念は、国内問題よりも、地政学的なものが大きい。パンデミックによる影響も、そうだ。

Q:日本のコロナ危機対策は、歴史的理由から米国に比べて弱く、措置の多くは強制力に欠けるという指摘もあります。どのように見ていますか。

A:緊急事態宣言の発令時期など、日本のコロナ危機対策が後手に回ったのは確かだ。しかし、日本は非常に同質性の高い社会であり、マスクを着けることなどにも市民がまじめに取り組んでいる。規制が強い欧米社会に比べ、自粛せずに外出する人が多いとしても、日本の状況には、そこまで大きな懸念は抱いていない。

Q:トランプ大統領は、世界保健機関(WHO)のコロナ危機対策について、中国への対応が甘いと批判しています。どのように見ていますか。

A:日ごろから言っているが、いまはWHOを批判している場合ではない。米中の政治的機能不全がなければ、死者も経済的損失も、はるかに少なくて済んでいたという認識だ。

アントニオ・グテーレス国連事務総長や前IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏(現欧州中央銀行総裁)など、多くの専門家と話したが、必要なコロナ危機対策の取り方や国際的なリーダーシップの在り方については同じ見解だった。世界の国々が協調すれば、医療物資や医療従事者のグローバルサプライチェーンを築ける、ということだ。

そもそも中国での新型コロナウイルス感染拡大をもっと早く知りえていたら、武漢での拡大時点で封じ込めることができていたら、こんなことにはならなかった。ただ、リーダーシップの不在により、パンデミックになってしまった。中国が情報を隠蔽したことも大きい。一方、米国では、各州の知事が危機対策を競っており、欧州でも、国同士が張り合っている。

これは、まさに主導国が存在しない「Gゼロ」時代の危機であり、グローバルな危機にほかならない。実に不幸なことだ。

(インタビュー・構成=肥田 美佐子 撮影=Richard Jopson 写真=毎日新聞社/AFLO)
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