表面化した会場依存型ビジネスの問題点

私は30年ほど前からウエディング業界に関わっている。この立場から、新型コロナウイルス感染拡大とともに業界を俯瞰すると、これまで見過ごされてきた課題が顕在化したことに気づかされる。

結婚式の会場には「専門式場」というくくりがある。これは結婚式だけのために作られた単目的会場で、そこでは結婚式や披露宴が唯一の商品である。それを売ることができないとなれば、受ける打撃は計り知れない。

そして売るものがないと同時に、新たな商品を作りにくいのがこの業界の特性だ。専門性が高いほど汎用性は低くなり、新しい商品企画の発想につながりにくい。例えばシャープがマスクを作り、フォードが防護服を作るなど、製造業が柔軟な対応を見せたのに対し、ウエディング業界は「密な会場」という特性から逃げ切ることができないでいる。

打開策を持てないのは会場だけでなく、周辺のパートナー企業も同様である。例えば婚礼衣装を扱う企業は、自社で会場を持っていたり式場紹介業を展開しているケースもあるが、多くは単商品を扱う業態で、従来会場との提携というBtoB営業で発展してきた。会場との契約さえ取れれば、後は会場から仕事が入るのを待つのみという会場依存型のビジネスモデルである。

しかし、これがあだとなった。長らくこうした会場依存型のビジネスを展開してきた結果、集客手法を含め、ゼロから発想するというイノベーションの風土がほとんど育たなかったのだ。新型コロナウイルス感染拡大を機に突然、「さあ、ここからは自分たちの足で歩いてください」と言われても、単独歩行は不可能に近いと言える。

結婚式が消えていく3つのフェーズ

当社は5月初旬、全国のウエディング系協議会と式場にコロナウイルスの結婚式への影響に関する調査を行った。それによると、3月、4月の結婚式の実施率は、3割弱だった。おそらく5月、6月も同様の状況が続くだろう。

なお新型コロナウイルス感染拡大の最初の影響は、「規模の縮小」から始まったことがわかった。2月初旬から結婚式を予定しているカップルからの問い合わせが増え始め、「式をやってもいいのか?」「他のカップルはどうしてる?」「老人は参加しない方が安全か?」などなど、実施を前提とした質問が主であった。

その頃は高齢者と基礎疾患のある人のリスクが高いという情報が主だったので、結果として妊婦を含めたリスクの高いゲストの参加とりやめが相次いだという。

その後、1カ月もしないうちに感染者数、死亡者数の増加とともに、「延期」という第2フェーズに入る。このフェーズには2段階あり、まずは春の予定を夏に延ばす程度の延期であった。ウエディング業界は夏は閑散期なので、一部では「業界始まって以来の忙しい夏になるのでは?」という声も聞こえたほどだ。

それが3月の後半になると、「夏も無理なら秋以降、あるいは1年先へ」の延期を考え出すカップルが見られるようになった。延期は決めたものの、日程は未定というカップルも多い。

そして最も懸念されるのが、「延期」から第3のフェーズ「中止」への動きである。結婚式をしないという結論により、ウエディング自体が消えていく。中止の理由はさまざまだが、妊娠、出産、転勤、引っ越しなど別のライフイベントが優先になったケースや、長期化しそうな不景気に対する警戒感、リストラへの不安もあるのだろう。