残業時間を銀行口座のように貯めておけるシステムがある

ドイツでは労働者が残業をした場合に、その残業時間を銀行口座のように貯めておき、後日休暇などで相殺する「労働時間口座制度」と呼ばれるシステムが普及している。加えて、企業が景気悪化などで操業時間を短縮して従業員の雇用の維持を図る場合、政府が減少した賃金の6割を補償する「操業短縮手当制度」が存在する。

ドイツではリーマンショック直後の不況期でも、この「労働時間口座制度」と「操業短縮手当制度」がうまく組み合わさるかたちで機能し、雇用・所得環境の悪化を軽減することに成功した。まず「労働時間口座制度」のもと、不況期に休業を余儀なくされた従業員は、景気回復後に労働時間を増やすことで、雇用が維持されることになった。

また「操業短縮手当制度」から所得補償がなされることで、人々の所得の減少がある程度は緩和された。今回のコロナショックでもドイツ政府は、これらの制度の適用要件を緩和することで、雇用・所得環境の悪化を軽減しようとしている。たとえば「操業短縮手当制度」は、従業員の10%で労働時間が短縮された場合に適用される運びとなった。

加えて社会保険に関しても、企業に代わってドイツ政府が負担する仕組みが用意されている。これら一連の措置は、2020年末まで継続される予定であるが、場合により延長もあり得る。このような仕組みがコロナショック以前にできあがっていたことが、今回のドイツの手厚い雇用維持政策を可能にしていることはまちがいない事実だ。

3カ月で最大180万の助成金も

なお零細企業や個人事業主に対しても、3カ月で最大1万5000ユーロ(約180万円)の助成金が出されている。申請して2日で1カ月分に相当する5000ユーロ(約60万円)が振り込まれたという報道もあり、その迅速さが話題になった。また在独の日本人事業者にも60万円が直ちに振り込まれたことが、SNSで好意的に広がった。

確かにこの制度では、ドイツの納税者なら国籍は問われないようだが、相応の所得制限が敷かれているなど、実際は受給のためには一定の要件を満たす必要があることに留意したい。どの国もこうした助成金に対しては、基本的に実情に応じた一定の受給要件を課しており、決して無尽蔵なバラマキが行われているわけでない。

ドイツではこのような雇用維持のための制度が存在するものの、ほかの欧州諸国を見わたすと、そうした制度が導入されている国ばかりではない。たとえばコロナウイルスの感染拡大が深刻なスペインでは、3月の1カ月間だけですでに30万人以上の雇用が非正規労働者を中心に失われており、雇用情勢は急速に悪化している。