温かく迎えられるのがうれしくて

父親の体調悪化の原因のひとつは、熱中症です。光熱費を滞納したことで、空調が使えなくなったのです。入院してしばらくして私は病棟でAさんから、13万円でどのような生活をしていたのか伺いました。

そうすると驚くべきことに、2人は月初めに入る生活保護を頼りに、高級すし屋にタクシーで行くことを楽しみにしていました。すし代は2人で3万円、タクシー代が往復で1万円。2人を温かく迎えてくれるお店の対応がうれしく、通い続けていたといいます。これは父親が働いていた頃からの唯一の楽しみであると共に、生活をここまで逼迫させた最大の原因だということが、後になってわかりました。

多くの人は、生活保護費で高級ずしを食べる親子を軽蔑し、2人の転落を「自業自得」と片付けるかもしれません。しかし私は、たったひとつの楽しみとして、カウンターで肩を並べておいしそうにすしを食べる2人を想像すると、Aさんを責めるどころか、ねぎらう思いにかき立てられました。精神疾患が当事者とその家族の生きがいまでも断ち切ってしまうことに、支援者としての無力さを感じました。

当事者たちは、人との交流を求めている

Aさんは果たして何に苦しみ、父親と「共倒れ」してしまったのでしょう。精神科疾患の当事者を医療や地域で支えてきた「浦河べてるの家」の理事を務める向谷地生良氏は、「多くの当事者には『関係の障害』がある」と言います。実際に当事者のエピソードを聞いてみると、対人・親子・学校・職場・地域との関係に苦労している人が少なくありません。Aさんは、自分の父親に対して疑心暗鬼になっていました。まさに、「親子関係の障害」に苦しんでいたのだといえます。

また、若いころのAさんを苦しめたのは「職場関係の障害」です。ある当事者は「能力以上の取り組みを求められ、途方に暮れた」「職場への足が遠のき、自己喪失感に押しつぶされたが、自殺する勇気もなく、自宅にこもってしまった」と悲痛な声をあげます。

精神疾患の当事者は、身内も含めた対人交流の中で、冷やかしや批判、のけ者扱いを受けたと感じたり、他人より自分が劣っているという劣等感にさいなまれたりし、自ら交流を絶ってしまうケースが多いです。そうしないと、自尊心を保てない状態になっているのです。しかし実際に関わってみると分かるのですが、当事者たちは、実は人との交流を求めているのです。