イランの出生率増減の背景にある「ファトワ(教令)」

シーア派について、イスラム学の権威である井筒俊彦は、『イスラーム文化』(岩波文庫)で次のように言っている。

「シーア派にとって『コーラン』は隠された意味の深みがある『暗号の書物』だ。シーア派にとっては、スンニ派のようにコーランを表面的に解釈して法制化し、政治的に利用するのは、むしろ、『本来純粋に内面的であるはずのイスラームを世俗化すること以外の何ものでもない』と考える」

テヘラン、イラン(2016年10月3日)
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霊性を備えた最高権威者をイマームと呼ぶが、シーア派は「十二イマーム派」という。ムハンマドの血統に連なる最後の12代目イマームは西暦9世紀末になくなり、「お隠れ」状態にあるが、「隠れたイマームから不断に発出してくる霊感の音波を敏感にとらえる霊性的アンテナを備えた人」が隠れたイマームの密かな指導の下に、国家社会の主権を握り、コーランの暗号を解きながら、「イスラム法を自分の聖典解釈によって柔軟に現実の事態に適用して」いくべきだというのがシーア派の考え方なのである。

「産むな→産め→産むな→産め」コロコロ変わる宗教指導者の言説

前出・井筒によれば、イラン人は存在感覚において著しく幻想的であり、感覚的で現実主義的なアラブ人とは対照的だという。

「しかもその同じイラン人が、いったん外面的世界、つまり現実の世界に戻ってきて、純外面的にものを考えるとなりますと、今度はたちまち極端にドライな論理的な人間に早変わりしてしまう」

ホメイニ師からハメネイ師に受け継がれた国家最高権威者の発するファトワ(教令)によって、出産奨励から家族計画へと急旋回できた背景には、こうしたシーア派ならではのイスラム主義が存在していたのだと理解できよう。ある意味、常識的な感覚のスンニ派イスラム国ではとてもマネできない芸当だったのである。

イランでは政府が家族計画を強力に推進した訳であるが、国民はそれを強制されたのではなく、むしろ、国民の意識変化がそれを後押ししたと見られる。

2010年期の世界価値観調査では「女性が充実した生活を送るためには子供が必要か」という問いを設けていた。回答結果を見ると、イランでは44.9%しか「必要」と答えず、エジプトの87.8%、トルコの73.3%と比べて特段に低く、日本の44.2%にむしろ近かった。