死後も契約は終わらない

ここでも家族の協力が得られないことからの結果とうかがえます。仮に亡くなったとしても、すぐに見つけられれば原状回復費用も多額にはかかりません。荷物の撤去費用も、狭い部屋で荷物が半端なく多くなければ、20万円ほどで事足りるはずです。それでも知らぬ顔をする家族が多いのです。そうなると結局、負担することになるのは家主です。さらにその金額もさることながら、ここで阻むのは法律の壁でしょう。

賃借権は財産であるため、相続の対象となります。そのため普通賃貸借契約や定期建物賃貸借契約の契約期間中に賃借人が亡くなった場合、賃貸借契約は相続人との間で継続している状況になります。そのため家主側は相続人全員と契約を解約するか、あるいは全相続人が相続放棄するかでないと、契約を終わらすことはできません。

賃借人が亡くなった場合、家主はまず相続人全員を探していかねばなりません。戸籍等の収集も、個人情報保護法から厳しくなり、個人で取得しようとなるとかなりの知識や労力が必要です。

やっと相続人を確定できたとしても、その相続人が行方不明の場合はどうなるでしょうか。この場合でも直ちに契約が終了するわけではなく、民法上は利害関係人または検察官が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、相続財産の管理と相続人の調査をすることになっています。

相続人がいないと残された荷物も処理できない

この相続財産管理人は、相続人が行方不明のケースだけでなく、相続人が相続放棄してしまい、次順位の相続人がまた相続放棄して、相続人が誰もいなくなったという場合も含みます。相続財産管理人が選任されるということは、相続人を探せなかった(いなくなった)ということなので、通常は賃借人が亡くなってから1年近くかかっていることも多く、当然にしてその間の賃料報酬も得られません。

さらにやっと選任されたとしても、相続財産管理人はボランティアではないため、亡くなった方の資産から相続財産管理人としての報酬分が得られないとなると辞任せざるを得なくなることもあり、実質家主側は何もできないことにもなりかねません。

賃貸借契約だけではありません。お亡くなりになった場合、その瞬間に部屋の中の物もすべて相続人の財産となります。家主側が勝手に撤去してしまうことは、他人の物である以上許されません。荷物を全部撤去してから亡くなる賃借人なぞ、まずいないでしょう。そうすると荷物は相続人に引き取ってもらうか、処分の同意を得ることが必要となります。

そもそも入居の高齢者にしっかりとしたお身内がいれば、孤独死ということも起きないでしょう。お部屋の中で亡くなったとしても、すぐに見つけてあげられるはずです。その上できちんと部屋の中のものを撤去して、「お世話になりました」と明け渡してくれるでしょう。要はそうしてくれない環境だから、家主側は困るのです。