それで全国を回って、社員たちと酒を飲んで歩いた。仕事が終わった後、安い居酒屋でホッケか何かをつまみながら、話をした。会社は1000人くらいの規模になっていたから、飲み歩くのも1年がかりで、それが終わる頃には体調を崩してしまった。

ただ、私はドロボー事件が起こったときでさえ、社員を疑ったことはない。「こいつもやるんじゃないか」なんて顔で社員を見たことは一度もない。社員のことはずっと信用していた。だから、あらためて思うけれど、経営者や上司にできることというのは、社員を信用することだ。それしかない。そうでなければ会社は崩壊してしまう。

部下のことは100パーセント信用しているけれど、私は決して物わかりのいいタイプじゃない。会議で私が提案したことを部下が全員反対したら、よし、やってやろうと考える。逆に、部下が全員賛成した案件については、ちょっと待てよと思ってしまう。部下の意見におもねることはしないから、物わかりのいい上司ではない。しかし、私は思うけれど、物わかりのいい上司の下では部下は育たないんじゃないか。部下は頑固な上司を説得することで自分の力をつけるんだ。上司に持つのなら物わかりの悪いタイプがいい。

「日本警備保障という社名をセコムに変える」と提案したとき、部下はみんな反対した。私自身でさえ、せっかく浸透してきた社名を新しくするには葛藤があったくらいだから、部下が反対したのももっともだ。だが、警備業から社会システム産業へと変身するためには社名を変えなくてはならなかった。それで、私は反対を押し切ってセコムにした。

また、私はどんな局面でも遠慮や斟酌なしに部下を怒る。

「部下を人前で怒鳴ってはいけない」なんて書いてある本もあるけど、そんなのはおかしいよ。誰の前でも、怒るときは怒るし、怒鳴るときは怒鳴る。怒るってのは感情だから、抑制しないほうがいい。怒ったり、泣いたり、笑ったり……。そういうことが自然とできる上司に部下は親しみを感じるんだ。でも、ねちねち怒ったりはしないよ。バーンと怒鳴って、それで終わり。