「あなたの答えに対し、『そうなんだよ』とか、『そうじゃないんだよ』といった形で反応してくるはず。そこで何度か会話をやり取りします。私の役目は、孫社長の“壁打ちの壁”に徹することでした。とはいえ、その場で、自分1人で答え続けるのはすぐに限界がきます。一方的に問いかけられるままだと、やがて黙り込んで、『やはりできない』と思ってつぶれてしまうでしょう。そこで第二のポイントとなるのが、自分は“ハブ”になって他の人も引き込みながらうまく回していくことです。たとえば『その件は○○さんが詳しいので、今すぐ電話で呼びますね』などと対応すればいいわけです」

うまくやり取りできれば、「こいつはちゃんと受け止めてくれる」という信頼が生まれてくるだろう。

「孫社長はムチャぶりした内容は決して忘れていない」

しかし、油断はできない。「孫社長はムチャぶりした内容は決して忘れていない」(三木氏)。「あの件はどうなった?」という突然の問いかけに、常々備えておく必要がある。

「私は必ず東京・八重洲の八重洲ブックセンターに足を運びます。本の分類が体に染みついていて、どこにどんな本がありそうか見当がつくので、効率がいい。孫社長が投資に興味を持っていた時期に『新しいキャッシュフローの予想に確率分布の概念を加えた企業評価理論を確立しろ』と言われたときも、真っ先にそうしましたね。私は投資理論の専門家ではありませんし、孫社長の考えは新しすぎてまったくわかりませんでした。いろんな本で勉強して『こんな感じでしょうか?』と孫社長に提示すると、『違う』と言われる。でも、そんなやり取りを続けるうちに、孫社長のやりたい形がなんとなく見えてくるわけです」

そこで三木氏が頼ったのは、やはり“他の人”だった。

「もちろん社内の人間はフル活用しました。それに加えて、いくつかの本の著者で、その分野では最高レベルの大学教授や、外資系投資銀行の第一線で活躍しているストラテジストなどに会いに行きましてね。幸いにも『孫社長の命を受けまして』と言うと、社の内外を問わず多くの人が協力してくれました」

この理論については、孫氏のコンセプトとして成立する形にはできたと思っている、と三木氏は言う。