政府は国を挙げ、海外就労をバックアップ

若年層の失業問題に詳しい、韓国・梨花女子大学経済学部のホン・ギソク教授は、人口的要因と景気変動的要因問題から指摘する。「まずは現在の青年層である91~96年生まれは韓国のベビーブームにあたる世代。単純に、高学歴者のインフレが起きて雇用市場を圧迫しているうえに大企業と中小企業の格差が激しい。さまざまな問題が絡み合って要因の特定が困難なのです」

老舗の就業学院(左)と、就業学院の看板(右)。韓国では就業学院に通って就職するのが一般的。中には10年通う人も。

大企業の数は全体の1%しかなく、中小企業との生涯賃金の格差が非常に大きい。中小企業だと大卒で年収200万~300万円台、出世しても500万円がやっとの世界だ。だから皆が必然的に大企業を目指しては落ち、人生を浪費する。大企業を目指す人は大学卒業後に就業学院という就活予備校に入り早くて1年、通常3~4年、長くて10年、志望する企業に入れるまで貧しいインターンやアルバイト生活をする。そして、大半が諦めて中小企業に落ち着く……というのが基本的な光景なのだ。

また、親世代に学歴信仰が強く残っていることも影響している。今の韓国の若者の親世代は、学を積めば立身出世が可能であると信じる人が多く、高卒から弁護士となった故ノ・ムヒョン大統領はそのモデルケースだった。

ソウルの大学出身者は自己評価が高くなりがち

「今はそう単純ではなくなりましたが、多くの大卒者、特にソウルの大学出身者は自己評価が高くなりがち。ブルーカラーの仕事を忌避するなど、仕事をえり好みする傾向があるのは否定できません」

フリーランスで個人事業をするという選択肢はまだ一般的ではなく、起業する若者も少数派だ。自国のそうした同調圧力にとらわれず、30~40代で富を築く例も多くはないが存在する。その事例をまとめた書籍『韓国の若き富豪たち』(イ・ジニョン著)では、十分に成功したにもかかわらず、親に言えていなかったり、大企業に就職しなかったことを責められたりする例も記され、儒教的な圧力も韓国社会の重しになっていることが窺える。

韓国政府はこのような状況から、国を挙げ海外就労をバックアップしている。韓国雇用労働部らが推進する「海外就業定着支援金制度」では、海外企業に就労ビザを取得して正式に就職した場合、国別にそれぞれ400万ウォン(約39万4400円)と800万ウォン(約78万8800円)が段階的に支給される。

政府機関である大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が推進する海外就労プロジェクト「K-move」が、民間企業と組んで行うエンジニア向けの日本就労研修では日本のビジネス習慣や日本語学習を10カ月ほど学ぶ。これにより、22年までに1万人の若者を日本で就労させるのが、目標だという。

一方で日本の有名企業も、韓国人材への触手を伸ばしている。