お父さんにとっても、この手法は有効だ。私の場合は、空手という技術を伴う分野での関係なので、「やって見せる」は不可欠としても、家庭においてはそれにこだわる必要はまったくない。父子の関係は広範囲であるため、自分の得意分野で「お父さん、すごい」を見せればよい。従事する仕事について話して聞かせ、そこから世のなかの仕組みに展開するのもいい。好奇心旺盛な子どもは目を輝かせるだろうし、この目の輝きがすなわち、「お父さん、すごい」となるのだ。

仕事について語るべきことがないというなら、偉人たちの伝記を読み聞かせることを勧める。子どもと一緒に読みながら、偉人の生き方や努力について解説してやる。解説は語り尽くされた定番でよい。それを耳にする子どもは、「お父さんの解説」 として聞くため、

「パパは何だって知っている!」
「パパ、すごい!」

ということになる。そして、道徳を語る人の人格が高潔に見えるように、偉人のことを語るお父さんもまた、偉人同様、素晴らしい人に見えてくるのだ。

むろん伝記にかぎらず、釣りでも、キャッチボールでも、手品でも、得意なことがあればそれを用いて「すごい!」を演出するのもいいだろう。

だが、得意なことが何もないと言うなら、歴史の話がイチオシだ。専門的な知識は不要で、中学・高校で習う日本史や世界史程度で充分である。源氏と平家の物語でもいいし、アメリカの独立戦争の話でもいい。第二次世界大戦の話だって、もちろんかまわない。子どもの知らないことを話して聞かせるのだから、知っている範囲でいいのだ。子どもは想像力がかき立てられ、「お父さんの話」に眼を輝かせることだろう。

差し伸べたい手をあえて引っ込める

私は原則として、道場内で親の見学はしないようにしてもらっている。子どもの人数のわりには手狭ということもあるが、親がそばにいると小さい子は甘えてしまうため、自立の障壁になるからだ。

希望があれば見学はもちろんかまわないのだが、

「ボク、疲れた」

と言って母親にすがりついていく子もいたし、

「ちゃんとやりなさい!」

と思わずわが子を叱咤したお母さんもいたりで、子どもの成長にはマイナスになると判断し、入会時にこのことを説明して納得してもらっている。