「連載3話」までの読者数で今後の人気が分かる

AIで読者の離脱防止には成功した。しかしかつてのアンケートのように、データで「ヒット作を見抜く」というところまでは実現していないようにも見える。だがデータを見ていくと、離脱防止とヒット作の発掘には関連性があることもわかってきた。

「連載開始から3話目までの読者数の推移をもとに、10話目までの読者数を誤差数パーセントの精度で予測できるようになっています。これを発展させて、3話目の時点でコミックスの売れ行きもある程度予測できるところまできています」

「1話目から3話目までの読者数の減り方がすごく影響しています。いくら初動が良くても、急激に読者数が減る作品は10話目でも数字が伸びないのです。だからこそ、3話目までで『いかにユーザーを離脱させないか』がかなり重要であることがわかりました」(越後氏)

週刊少年ジャンプでは、編集者は作家にネーム(マンガのコマ割りや構図などを大まかに表したもの)を3話目まで作ってもらい、3話目までが面白いかどうかで連載の可否を決めるという文化が根付いている。ジャンププラスでもこれを経験則として踏襲していたが、その意味がデータによって改めて裏付けされたかたちだ。まだ実証実験の段階だが、将来的にはこういったデータから「AI活用以後のヒット作」が生まれる可能性もある。

人気マンガの「勝ちパターン」をデータから導く

今後ジャンププラスはビッグデータやAIをどのように活用していくつもりなのか。その答えの1つが漫画の勝ちパターンと負けパターンの抽出だという。

「ヒットの“ものさし”となる指標を見つけることができれば、その指標をどうやってよくするのか、つまりヒットを作るにはどうすればいいのかも見つけられると思うんです。また、こうなったらダメだ、という負けパターンも同様です」

「実は負けパターンを見つけるほうが簡単だと思っています。今でも編集者は『(ヒットの理由は分からなくても)ダメなマンガの理由はわかる』とよく言います。最終的には負けパターンの作品を勝ちパターンに変えることができれば1番理想的ですが、データに着目することでより早く負けパターンを見つけられるようになるだけでも大きいです」(細野氏)

一方の越後氏は「はやらないマンガを特定できるが、それを制作の現場にどう落とし込んでいくかが課題」だと話す。

「今の時代にあった新しいマンガの作り方を考えるという意味では、作品の伸びや離脱を予測するだけでなく、『なぜそうなっているのか』の納得できる理由までを提示しないと、現場には落とし込めないと思っています」