昨年末から毎日、近所のスポーツジムに通っている。目的は1つ。体脂肪率を落として、筋肉質に変身すること。ある日、引き締まりに欠けたわが身に愕然としたのだ。このままではいけない。メタボが心配だ……。

それにしてもジム通いで汗を流すのは、なかなかの爽快感である。有酸素運動と無酸素運動を1日おきに行っているのだが、あるとき、有酸素運動であるエアロバイクをこぎながら考えた。「企業経営も筋肉質でなければならない」と。サブプライム問題で揺れているものの、世界で最も安心な有価証券とされる米国債の利回りは5%程度もある。企業が税引き前利益で同じ5%を稼ぎ出すには、もっともっと筋肉質でなければならない。

企業を人体に例えると、人材、設備などの固定資産は骨格、現金・預金は血液といったところ。材料という食べ物を取り込んで、それが売上債権という筋肉になる。食事を多く摂取しすぎると、増えるのは棚卸資産という名の体脂肪。活動のためにはある程度の体脂肪も必要だが、過剰になると脂肪過多になってしまう。

日本ではトヨタのカンバン方式などが浸透していることもあり、棚卸資産は少ない傾向にある。とくに製造業では、加工賃がのっている仕掛品や製品が少ないほうが棚卸資産は圧縮できる。変化を見るなら、前期比ではあまり差が出ないので、5年前と比較するのがいいだろう。

企業の体質を棚卸資産の回転日数で測定

企業の体質を棚卸資産の回転日数で測定

こうした場合、会計のプロは「回転日数」を目安にする。「棚卸資産×365(日)÷売上高」が回転日数であり、売上高の何日分の在庫を持っているかを表す。これが少ないほど体脂肪率が低く、筋肉質ということになる。「棚卸資産の回転日数が30日を切ったら筋肉質、60日を超えたらメタボ症候群」が目安だ。

回転日数が120日にもなっていたら、架空在庫や在庫の過大評価による粉飾を疑ってかかる。心筋梗塞の危険性大である。粉飾でなくても、事前に在庫を購入してから、お客に売れるまで4カ月以上かかるのでは血液が回らず、会社は貧血でふらふらの状態になる。それに、回転期間が延びるほど短期借り入れが必要となる。月商10億円の会社なら、1カ月延びると借り入れが10億円増える。金利が5%なら年間5000万円の金利負担となる計算だ。棚卸資産や売掛金が増えるということは借り入れが増えることであり、食費がかさむのだ。

上手くいっていない会社の8割は在庫の問題を抱えている。だから、私は材料が残っている理由を聞くことにしている。アフターサービスのために部品を残しているというケースもあるが、使うはずがないのに残っているものは削ってもらう。埃を被っている仕掛品や、工場の前に出荷待ちの製品が常に置いてあるのは要注意。例外もあるが、客先との力関係で、急遽作らされているなど、振り回されている可能性がある。

経営を筋肉質にするためには、何より先に棚卸資産を減らす。単に材料を買う量を減らす、在庫を捨てるというのではなく、少ない在庫でいかに経営を成り立たせるかを考えるのだ。それは、人を減らすことにもなり、トータルケアにつながる。棚卸資産は、そんなトータルケアをするのに注目すべき項目でもある。仮払金を減らそうというのでは、単に精算を早くしろというだけで済んでしまう。

ただしダイエット同様、リストラにもリバウンドの危険が伴い、負債を圧縮して安心してしまうケースはリバウンドにつながりやすい。急激な変化を求めず、適切な速度を保つことも重要だ。かくして私の体脂肪率は、やや高い23%から、適正範囲とされる17%となった。果たして維持できるか――。この答えは2、3カ月後のお楽しみにしてほしい。

(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)