外交的交渉の困難さ

言うまでもなく、このような韓国大法院の判決は、やはり二重の意味で、日本政府、より正確には司法部の判断とは異なるものになっている。周知のように、日本の司法部は請求権協定をもって個々の韓国人が有する個人請求権は-消滅はしないものの-韓国政府が責任を持って処理することを約束したものと見なしており、また、日本の植民地支配についても合法論の立場に立っている。当然のことながら、日韓両国の行政部は各々の司法部の判断に従う義務を有しており、これに反する形での交渉を行うことはできない。なぜなら仮に両国政府が両国司法部の判断と矛盾する政治的妥協を行えば、訴訟当事者には今度は両国政府を相手取って損害賠償請求を行う権利が生まれてしまうからである。

だからこそ、もはやこの状況においては、大きく乖離した条約の解釈を、外交的交渉により糊塗(こと)することは不可能に近い。そしてそのことを一層困難にする状況が、韓国政府のもう一つの行為により作り上げられつつある。すなわち、11月5日、韓国外交部は2015年に行われた慰安婦合意についてその法的効力を否定する見解を出すこととなった。このことは日本側においては、歴史認識問題において韓国側といかなる合意を行っても、一方的にその法的効力が否定される典型的な例として見なされており、その交渉意欲を極端にそぐ結果をもたらしている。

国際司法裁判所による判断を待つのが建設的

従って、このような状況下で仮に韓国側が、例えば当座の日本企業の負担を軽減、あるいは肩代わりするような措置を提案しても、日本側がこれに応じる可能性は極めて低い。なぜなら合意が実質的に反故にされた場合の政治的責任を負うことは、日本政府もまた負わねばならず、極めて大きな負担になるからである。両国司法部の条約解釈が分かれている以上、これを調整しないままの解決は不可能であり、事態は請求権協定が定める仲裁委員会の設置か、これに代わる機関、より具体的には国際司法裁判所の判断を待つほかないであろう。そして長期的に見るならその方がより建設的である。