安倍晋三首相が静かな政策転換を図ろうとしている。これまで安倍首相は一にも二にも「憲法改正」の旗を掲げてきたが、そちらはいったんブレーキを踏み、歯舞・色丹の「北方2島先行返還交渉」に力を入れ始めた。このシフトチェンジは何を意味するのか。安倍首相のしたたかな計算とは――。
2018年11月14日、シンガポールにて、ロシアのプーチン大統領と会談した安倍晋三首相。(写真=EPA/時事通信フォト)

「固有の領土」すらNGワードになった異常

「いちいち反応するのは差し控えたい。私が場外で交渉しているがごとくになってしまう」

11月26日、衆院予算委員会の集中審議。安倍首相は、野党議員から北方領土がロシアに不法に占拠されているのかどうかを聞かれると、奥歯に物がはさまったような答弁を繰り返した。

これまで日本政府は、北方領土は日本の固有の領土で、ロシアに不法に占拠されたものだという説明を重ねて強調してきた。外務省のホームページにも「北方四島は、一度も他国の領土となったことがない、日本固有の領土です。しかし1945年に北方四島がソ連に占領されて以降、今日に至るまでソ連・ロシアによる不法占拠が続いています」と明記されている。

ホームページにもある記述さえも答弁しないのは異常なことだ。翌27日の朝日新聞は「首相答弁 避ける『4島』 『不法占拠』も遣わず」、東京新聞は「首相『不法占拠』言及せず」との見出しをつけて報じている。

プーチン氏を刺激したくないので、言動が慎重に

安倍首相は11月14日に行ったプーチン・ロシア大統領との23回目の首脳会談で、歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すとする1956年の「日ソ共同宣言」を基礎に交渉を加速することで合意した。つまり2島返還を先行させる方向で交渉を進める決断をした。

安倍首相は今後、プーチン氏との会談を重ね、2島返還に道筋をつけたい。その最中に「4島は日本の固有の領土だ」「ロシアに不法占拠されている」と発言することで、プーチン氏を刺激して交渉が暗礁に乗り上げてしまっては元も子もない。だから言動は慎重すぎるほど慎重にしているのだ。