銀行の「横並び主義」をうまく利用する

ある流通業の社長さんが相談に見えました。商品の仕入れ代金のために申し込んだつなぎ融資の3000万円がなかなかおりなくて困っていると言うのです。

「それで、何行か銀行には掛け合ったのですか」
「いえ、数行と取引はあるのですが、すでに別件で融資を受けているので、今回は○○銀行さんにだけお願いしています」
「御社は事業も伸びているし、返済も問題はないでしょう。短期借入ならどこでも対応してくれると思いますよ」

私は、相談者の方に、複数の銀行に掛け合うことをお勧めしました。私の狙いは、銀行の横並び主義をうまく利用することです。銀行の場合、お金という差別化しにくい商品を扱っているためか、ライバル行との間で、同じ土俵で顧客を奪い合うことが多いのです。金利差もほとんどありません。

「そうですか。向こうが出すというなら、うちはもっと出しますよ」
「でも、××銀行さんは個人保証はいらないとおっしゃっていますが……」
「本当ですか。わかりました。その件も早速上司と相談してみます」

都市銀行同士、地銀同士であればライバル意識丸出しになるので、こうした話がトントン拍子で進んでしまうことがあります。やりすぎて心証を害するのもまずいのですが、銀行の担当者もうすうす気づいていながら挑発に乗ってくる場合もあるのです。

今回の相談者には、まず、きちんと事業計画書をつくったうえで、銀行に借入の申し込みをしていただきました。結果は、3行中、2行から満額回答でした。

銀行員に悪い印象を持たれてはいけない

最後に注意事項です。お金を借りる時は神妙な態度で頭を下げるのですが、借りてしまえばこっちのものと言わんばかりに、急に羽振りがよくなる社長さんが時々います。そういった話はすぐに銀行員の耳に入ります。派手な外車を乗り回しているのを見ると、カネを貸した担当者はどう思うでしょうか。

銀行員も人の子です。「あんなやつには二度と貸さない」と思われたら一巻の終わりです。銀行のすごいところは、文書主義が徹底していて、前任者の記録が後々ものを言います。融資担当の心証を害して、マイナスの記録を残されたら、その銀行では二度と相手にしてもらえなくなるでしょう。

また、信頼を裏切る行為は完全にアウトです。銀行との約束を反故にしたり、こっそり他行に資金移動したりといった悪質な背信行為が発覚すれば、彼らは本気で怒ります。場合によっては、損失覚悟であなたの会社を潰しにかかります。決して銀行を甘く見てはいけません。

三條慶八(さんじょう・けいや)
経営アドバイザー
1960年神戸市生まれ。負債140億円を背負った会社を完全復活させた経験に基づき、中小企業経営者に会社経営、会社再生法を伝授している。著書に『1000人の経営者を救ってきた コンサルタントが教える 社長の基本』(かんき出版)、『あなたの会社のお金の残し方、回し方』(フォレスト出版)など。
(写真=iStock.com)
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