地方経済の「うまみ」とはなにか

それを考えるために、まずは釧路についてみてみたい。釧路は道東の中核として水産や炭鉱で栄えていたが、いまは国の過疎地域に指定されている街だ。2017年3月末時点の人口は約17.3万人、釧路町や厚岸町などの釧路管内をあわせると約23.5万人となっている。

釧路の特徴は、北海道のなかでも特に人口減少が著しいということだ。かつては北海道第4位の人口を有するマーケットだったが、2018年1月には苫小牧に抜かれて道内5位になり、さらに2年後は道内6位の帯広市にも抜かれると予想されている(「日本経済新聞」2018年2月6日「苫小牧市の人口、釧路抜き北海道内で4位に」)。その背景には、基幹産業の低迷がある。1987年には約45万トンの水揚げ量があった水産加工業は、今では10万トン以下に落ち込んでいる。また最盛期は約261万トンを採掘していた炭鉱は、化石燃料や原子力へのエネルギーシフトで約53万トンに減ってしまった。

かつてイワシ漁が盛んだったころは、夜の街は札束をにぎった漁師であふれて、飲めや歌えやの大騒ぎだったという。だが、いまの街にその面影はない。にぎわっていた中心街はシャッターが降り、人通りもまばらだ。産業は衰退して人口も減り、国からは過疎地域に指定されている街、それがいまの釧路だ。

釧路市街地・末広の様子。店にシャッターは降りて人影もない。(著者撮影)

残ったプレイヤーが「総どり」できる

このように衰退しつつあるはずの地方に、なぜスターバックスは新しく出店するのか。

それは、都市への出店が飽和したという理由だけでなく、地方は競争相手が少ないという「うまみ」があるからだろう。たとえ成長しないマーケットであっても、競争相手がいなくなれば市場を独占することができる。ほとんど無競争になった環境で、市場を独占して高収益を享受すること。それが地方経済の「勝ち」のひとつのパターンだ。

この残存者利益という「うまみ」は、北海道ではさらに大きい。なぜなら都市と都市との距離が、ひとつの「参入障壁」になっているからだ。北海道はとにかく広く、釧路から札幌まで約300kmあって車で片道約5時間もかかる。本州なら東京から名古屋までいけてしまう距離だ。釧路からもっとも近い都市の帯広市でさえ車で片道約2時間かかり、ふらりとコーヒーを飲みにいくには遠すぎる。

このように競争相手も少なく、物理的な距離にも守られているため、残ったプレイヤーが「総どり」できるのが北海道の地方都市の特徴だ。競合の少ないマーケットのなかで、残った利益をめぐってプレイヤーたちがしのぎをけずっているのが地方経済の実態である。