安倍首相は「放送法4条の撤廃」を諦めてはいない

まさに「勝って兜の緒を締めろ」である。

政府の規制改革推進会議が6月4日、放送事業を見直す答申をまとめた。焦点だったテレビ番組の政治的公平性などを定めた「放送法4条」の撤廃は見送られた。

しかし、安倍首相は同会議で「大胆な規制改革の断行は時代の要請」とも語り、総務省で放送事業の将来を総合的に検討するよう求めた。つまり安倍首相は、放送法4条の撤廃を完全に放棄したわけではない。油断はできない。今後、その危険性があることを私たちは自覚しておく必要がある。

安倍首相の狙いのひとつは、安倍政権を批判する民放をたたいてつぶせる仕組みを作ることにある。アメリカのFOXテレビ(フォックステレビ)のようなトランプ政権を一方的に支持する放送局やインターネット事業者を確保したいのだ。

そうなると、安倍政権のウソをただすメディアはなくなり、ウソで塗り固められた政治が続いてしまう。それは日本国民にとって悲劇以外の何ものでもない。

2018年6月4日、規制改革推進会議で発言する安倍晋三首相(手前)。手前から2人目は議長の大田弘子政策研究大学院大教授(写真=時事通信フォト)

番組ジャンルの調和撤廃は、日本の社会を分断する

放送法4条の撤廃論については、プレジデントオンラインの4月4日付で「ナベツネも反対する“放送法改正”の乱暴さ」との見出しを付けて取り上げ、次のような内容を指摘した。

「放送の自律を保障しながら公共の福祉に適合するよう規制する法律が放送法だ。その4条では(1)公序良俗を害しない(2)政治的公平さを失わない(3)事実をまげない(4)意見が対立する問題は多角的に論点を明確にする――の4点を放送局に求めている」
「ところが安倍政権は、NHK以外の放送局に対し、番組基準の策定や番組審議会の設置を義務付け、さらに教養、報道、娯楽など番組ジャンルの調和を求めている放送法4条の規定をすべてなくすことを検討してきた」
「放送法4条の撤廃で、一時的には放送業界は活性化されるかもしれない。しかし政治的にかなり偏った番組が氾濫する恐れがあり、事実を曲げた放送がはびこる危険性は強い。視聴者は何が事実で、どれが虚偽かが分からなくなり、自分の興味本位でしかものごとを見なくなってしまう。日本の社会は大きく分断され、大混乱する」

安倍首相に物申せるのはナベツネさんぐらいなのか

そのうえで、最後にこう言及した。

「4月2日、安倍首相は東京・丸の内のパレスホテル東京でメディア関係者らと会食している。出席者は渡辺恒雄・読売新聞グループ本社主筆、熊坂隆光・産経新聞社会長、海老沢勝二・NHK元会長らだった。一体なにが話し合われたのか」

沙鴎一歩の取材によると、会食では渡辺氏が先頭に立って放送法4条の撤廃に真っ向から反対し、「戦時中、新聞やラジオが戦争を煽る政府の宣伝に利用された。この反省から生まれたのが放送法だ。放送法4条によって公共の福祉が守られる。4条を撤廃することはあってはならない」と訴えたという。