さらに毎日社説は問題点を具体的に挙げながら、偏った方向にかじを切ろうとする安倍政権の危険性を指摘する。

「代表例は、放送と通信の番組をネットで流す際、同じサイトを使う仕組みを作るよう求めたことだ」
「現在、放送番組のネット配信はNHKと民放が別々に手がける。まず放送を一緒にし、さらにネット事業者も加われる体制にするという」
「ネットの普及でテレビ離れが進む中、規制改革推進会議は、新規参入で競争が加速すると、番組の魅力が高まり視聴者にメリットがあると主張する。本当にそうだろうか」
「しかもネットは極端に偏った情報やフェイク(偽)ニュースが目立つ。こうした懸念のあるものが放送番組と同じサイトで流れると、区別がはっきりしなくなる恐れがある。これでは視聴者に有害なだけだ」

同感である。終盤、毎日社説は「そもそも民主主義を支える公共的役割を担ってきた放送と、収益など市場原理で動くネット事業者を同列に扱うこと自体に無理がある」とも指摘するが、これも肯ける。

安倍首相は4条の重要性に気づいているのか

朝日新聞の社説(6月8日付)もその見出しで「引き続き監視が必要だ」と強調し、「心配された事態はとりあえず避けられた。だが、これからも監視を怠ることはできない」と書き出す。

朝日社説は放送法4条の成り立ちから今回の撤廃問題までを解説していく。

「この条文は、放送事業者が自らを律し、良質な番組をつくるための倫理規範だというのが、学界や放送現場で定まった考えだ。戦前の放送の反省にたち、民主社会をおおもとで支える言論や報道を、より豊かなものにする基本の心構えといえる」
「ところが政府自民党は、これを放送局を攻撃・牽制する根拠に使ってきた。その傾向は現政権でいっそう強まる。高市早苗元総務相が、4条違反を理由に電波を停止する措置もあると述べたのは記憶に新しい」
「一方で、この条文があると政治の側ができる口出しも限界を伴う。そこで浮上したのが『撤廃』の考えだ。4条を口実にした介入も、一見その逆をいく撤廃論も、放送を自分たちにとって都合のいい道具にしたいという政権側の思惑が、根底にある点において変わりはない」

安倍政権の放送法4条の撤廃に対し、既存のメディアの新聞やテレビは強く反対した。戦後の民主主義が築き上げたたまものが、放送だからである。

放送だけではない。公平性と事実に価値を置いて自主自律していくことは、私たちが社会生活を送るうえでの基本である。安倍首相や安倍政権は「もりかけ疑惑」で野党に追及され、揚げ句の果てにウソとしか思えない答弁を重ねてきた。そんな政権だから放送法4条の重要性に気づかないのだ。

(写真=時事通信フォト)
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