【佐藤】私も同じ考えです。もし民主党政権スタート時に小沢首相、鳩山幹事長だったら長期政権になっていた可能性もある。秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕されて、09年5月に小沢一郎は代表を降りてしまう。それが大きかった。

小沢は、政治主導で検察を改造する計画を立てていました。検事総長の内閣同意制や検事正を公選制にすることで、予算や人事に手を入れようとしていたのです。それを察知した検察庁特別捜査部が小沢つぶしにかかった。

16年のアメリカ大統領選中、FBIがヒラリー・クリントンの私用メールを再捜査しました。小沢つぶしと構図は同じです。検察もFBIも組織防衛の論理で動いたんです。

博士号を取得した鳩山氏は「本物の学者」

【片山】民主党政権は発足当初、75%と歴代2位の高い支持を得ていました。佐藤さんは鳩山由紀夫という政治家をどうごらんになっていますか。宇宙人とかいろいろ言われていますが。

佐藤優、片山杜秀『平成史』(小学館)

【佐藤】鳩山の最大の問題は、危機管理の専門家だったことです。

鳩山が英語で書いた学術論文を読んで驚きました。英語が見事で、内容も素晴らしい。政治家になるまでのつなぎとして腰掛けで学者をしていたのではなく、本物の学者だった。

東大工学部卒業後にスタンフォード大学に留学した彼は、電気工学とオペレーションズ・リサーチ学の二つの修士号を得て、博士号を取得した。私が読んだ論文のテーマはロシアの数学者、アンドレイ・マルコフが唱えたマルコフ連鎖確率の研究でした。

その論文では、1000人いる女性のなかから最高のパートナーを見つけるにはどうすればいいか、何番目で決めるのがいいのか、かなり複雑な計算式で割り出している。1度断ったら2度目はない。まず、1番目は絶対に断らなければならない。そして368人目までを断る。そして368番目の女性を基準にして少しでもいい人を選んだ場合、最適なパートナーである可能性が高いと証明している。

【片山】ものすごく面白いですね。学者としてどころか、人生相談の大家として細木数子を凌ぐ人になれた気さえしますが。