3月19日、大阪・万博記念公園の「太陽の塔」の再生がなり、およそ半世紀ぶりに内部の一般公開が始まった。現在では「太陽の塔」は、万博のテーマ「進歩と調和」を体現するものだと思われている。だが製作者・岡本太郎の狙いはまったく逆だった。1年半にわたり再生プロジェクトを密着取材したNHKのプロデューサーが、太郎の真意を解説する――。
万博記念公園にある「太陽の塔」。『蘇る太陽の塔~“閉塞する日本人”へのメッセージ』より

あれは「進歩と調和」ではなく「縄文の怪物」

3月19日、大阪・万博記念公園の「太陽の塔」の再生がなり、およそ半世紀ぶりに内部の一般公開が始まった。私たちは、1年半に及ぶ再生プロジェクトに密着取材した。この前代未聞の難しいプロジェクトの陣頭指揮をとったのが、岡本太郎記念館館長の平野暁臣さんだ。

「太陽の塔」が大阪万博の真ん中に立っている意味を知っているだろうか。

多くの人は実は誤解している。あれは科学技術と資本主義の祭典、万博のシンボルだ、または万博が掲げたテーマ「進歩と調和」を体現するシンボルタワーだ、と思っているだろうが、本当はまったく逆なのだ。

科学技術と資本主義一辺倒で豊かさを追い求めてなんとかなる時代は、そのうち行き詰まるぞ、進歩と調和などといっていて未来が拓ける時代は早晩終わりを告げ、本当に人間が生き生きと輝くにはどうすればいいか、根本から見直さなくてはならない時がくる。そのとき何を信じるか。それは「縄文」だ、今こそ縄文を取り戻すべきなのだ。そのような意味を込めて、岡本太郎は万博の真ん中に、この「縄文の怪物」を突き刺した。

「今こそあいつに働いてもらわなければ」

そしてその怪物が、太郎が太陽の塔を突き刺した1970年よりずっと行き詰まった今の時代に、科学技術や資本主義の伸び代がなくなり、いいようのない閉塞感が満ちる現代日本に蘇(よみがえ)る。蘇るべくして蘇る。平野さんは、「今こそあいつに働いてもらわなければ、日本人よ目を覚ませ、縄文を取り戻せと叫んでもらわなければ」と語る。太陽の塔の中の「生命の樹」は「怪物の内臓」にあたり、その再生はまさに縄文の怪物を「生き返らせる」ことだという。

だから太陽の塔再生プロジェクトは、単なる工事でも、芸術作品の補修でもない。迷える多くの日本人に有効な希望の刺激を届けるような、自信を失い、あるいは歩むべき道が見つからない人の灯火となるようなものを作らなければならないと意気込んだ。

今もし岡本太郎が生きていたら、こんなことをしたいと言って突き進んだであろうことに、果敢に挑戦しよう。まあこれくらいでいいだろう、ではなく、限りなく高みを追い求め、太郎の時代を超えよう。そんな気概でプロジェクトは進んだ。その先頭に立つ平野さんの獅子奮迅ぶりは尋常ではなく、しかも底抜けに明るく楽しそうで、まさに熱気に満ちていた万博の時代を彷彿とさせるものだった。