ペーパーレス化の一方、世界の「紙」の需要は増えていく

【田原】でも、水資源を守りたいなら、IT化を進めてペーパーレス社会にしたほうが早いんじゃない?

【山崎】よくそう言われます。でも、世界的に見ると、紙の需要は今後減るどころか増えていくんです。いま日本は1年間に1人あたり約210キロの紙を使っています。アメリカは、もっと多くて約220キロ。それに対して、中国は約75キロで、インドは約10キロです。仮に先進国でペーパーレスが進んで半分の100キロになったとしても、100キロに満たない多くの国では引き続き紙の需要が伸びていく。いまの人口増加と産業化のペースでいくと、30年には現在の倍の量の紙が必要になると試算できます。

TBM代表取締 山崎敦義氏

【田原】水資源が豊富な地域で紙をつくって運ぶのではダメなんですか。

【山崎】中国やインドのような広大な国では、水資源の豊富な沿岸部でつくったとしても、内陸部に運ぶのに物流コストがかかります。一方、LIMEXは水資源が必要なく、主原料となる石灰石はどこにでもあるから、場所を問わずにつくれます。たとえば17年の3月に、サウジアラビアの国王が来日しましたよね。そのとき私たちや日揮は、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁とLIMEX事業展開検討の基本合意をしました。ご存じの通りサウジアラビアは国土の大半が砂漠で、水や木が極端に乏しい。でも、そのような国でも石灰石は豊富にあって、LIMEXを大量生産できる。同じように水資源が乏しい地域を含め、いま世界中から300を超える問い合わせをいただいています。

【田原】エコのほかにもLIMEXが紙より優れている点はありますか。

【山崎】耐久性と耐水性に優れています。たとえば、水の中に1日中浸けておいても弱くなって破れたりしません。価格競争力がついて安くつくれるようになれば、かなりの部分を代替できるんじゃないでしょうか。

【田原】本やノートに使われる紙はどうですか?

【山崎】紙じゃなきゃダメなものは残ると思います。いまの段階で代替するのは、もう少し高機能なものです。たとえばいま実際に普及し始めているのが飲食店のメニュー。お店に行くと、メニューを印刷した紙をラミネート加工して置いてあるところが多いですよね。ラミネート加工するのは、飲み物をこぼしたりして汚れやすいからですが、LIMEXならラミネートは不要。お醤油をこぼしても、さっと拭けば問題ありません。

【田原】先ほど、プラスチックの代替品にもなるとおっしゃった。いま机の上に置いてある容器がそうですか。

【山崎】はい、これらの容器類はすべてLIMEXでできています。100%石油由来のプラスチックをLIMEXに代替すれば、石油資源の節約になります。さらにいまは建築資材や住宅設備への応用も研究開発中です。石灰石はセメントの材料。もともと建築素材と親和性が高いので、開発はしやすいです。