※本稿は、岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)を再編集したものです。
日本のアニメはゴールドラッシュ
日本のアニメ業界は、未曾有のゴールドラッシュを迎えようとしています。Netflixを始めとした世界的な配信事業者が、多額の予算を投入して日本のアニメを世界に配信しようとしているわけですが、そのきっかけの1つは間違いなく『君の名は。』の大ヒットでしょう。
興行収入は250億円を突破して、歴代の邦画興行収入ランキングでも『千と千尋の神隠し』に次ぐ2位。中国をはじめとする海外でも好成績を収め、全世界の興行収入では『千と千尋の神隠し』を上回ったほどです。
映画批評サイト「Rotten Tomatoes」での批評家の評価を表す「トマトメーター」も97%とかなり高いですね。
『君の名は。』が世界的にこれだけウケた理由は、「ルック」、そして大きな「物語の構造」にあります。
1月3日の地上波放映を楽しみに待っている方も多いでしょうから、話の中身にかかわる「物語の構造」については放映後にもう一度このサイトで語るとして、ここでは「ルック」について説明しましょう。
映画の画的な個性のことを「ルック」といいますが、これまでの邦画は洋画に比べて、「ルック」で大きく後れをとっていたと僕は思います。
例えば、『スター・ウォーズ』シリーズは、ものすごく画が絵画的です。1つのカットをバンと見せられただけでも観客は圧倒され、その世界に引き込まれてしまう。『スター・ウォーズ』の1作目で、巨大な戦艦、スター・デストロイヤーが画面のほとんどを覆い尽くす様子。惑星タトゥイーンに沈む二重太陽の美しさと異世界感。
邦画はせいぜい珍しい風景を映す程度で、なかなかああいう本格的な画がつくれませんでした。新海誠は世界に通じる「ルック」をもっている、日本では稀有な作家です。
もしかすると『君の名は。』は、21世紀の『ローマの休日』(1953年)になったのかもしれません。『ローマの休日』は、恋愛ドラマの原型のなかの原型といえるハリウッド映画です。みんなが憧れる観光地ローマを舞台にして、お姫様と新聞記者が恋をする。