「AIが人の仕事を奪う」。そう言われるようになった大きなきっかけは、2012年にグーグルが「ディープラーニング」という技術を確立したからです。そんな「AIの王者」であるグーグルが、人事評価で重視するスキルがあります。それはなにか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が解説します――。
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AIとは「異星人的知性」の略である

「AIが人の仕事を奪う」とは、この1年の間でずいぶんと聞き慣れた表現になりました。

しかし、AIとはいったいなんでしょうか。私は、ここで「AIとは『人工知能』ではなく、『異星人的知性』の略である」という主張をご紹介したいと思います。

ワイアード誌の創刊編集長であり、米国のテクノロジー業界に大きな影響力をもつケヴィン・ケリー氏は、著作『これからインターネットに起こる「不可避な12の出来事」』(インプレスR&D)の中で、「AIという言葉は、人工知能(Artificial Intelligence)という言葉ではなく、人間とはまったく違う発想をする知能として、異星人的知能(Alien Intelligence)の略と考えるべきだろう」と述べています。

また同氏は、『〈インターネット〉の次に来るもの』(NHK出版)の中で、AIが人間の仕事を奪うか否かという議論に時間を費やすのではなく、「われわれの仕事は違った考え方をするマシンを作り、異質な知性を創造することなのだ」と述べているのです。

AI時代に最も重要なのは「論点を立てる力」

筆者が外資系企業に勤めていた頃、米国人の上司がいつも言っていたのは「日本人は与えられた問題を解くのは得意だが、自分で問題を設定するのは下手だ」ということでした。

この上司は「日本のバブル崩壊後の長期低迷の主因は、課題設定能力不足にある」と主張していたくらい、日本人のスキル不足を問題視していました。

「欧米企業が設定したテーマを自らのテーマとして追いつくだけでよかった時代には、日本企業は最強であったが、自ら未来のテーマを設定しなければならない時代には、日本企業は国際社会から取り残される」と辛辣なコメントをしていたことは、いまでも強烈な記憶として残っています。

実際に、国際的にも日本人の多くは課題や問題の設定が不得意であると指摘されています。

そうした課題設定を学ぶには、クリティカル・シンキングを身につける必要があります。これは「批判的思考法」とも呼ばれるもので、現状から課題を見出し、現状を分析したうえで、解決の仮説を立て、検証し、実行することです。論理的に思考していくことも求められますが、最終的には与えられた問題を解決していくだけではなく、自ら合理性の高い問題設定や課題設定を行い、それらの解決策を見出すことができるようにしていくのがクリティカル・シンキングなのです。

クリティカル・シンキングにおいて、自分で課題や問題を設定することを「イシューを立てる」「論点を立てる」と言います。

仕事において重要なことのひとつは、問題を解決していくことです。新入社員のうちは、上司や誰かが自分が解くべき問題を与えてくれるかもしれません。もっとも、役職が上がるにつれて、仕事において取り組むべき問題や課題は自らが考え、自らがそれを解決していく必要性が高まってきます。