グーグルが人の仕事として大切にしていること

冒頭に述べた「AIが人の仕事を奪う」という危機感が急速に広まったのには大きなきっかけがあります。

それは、「AIの王者」であるグーグルが、2012年にディープラーニングという技術的な進化をAI分野で成功させたことです。グーグルは同年にYouTubeから無作為に取り出した多数の画像をAIに学ばせて、猫という概念をAIに学び取らせることに成功しました。これ以降、AIのディープラーニングは短期間のうちに進化し、実際にAIが人の仕事を奪うことが現実化したのです。

そのグーグルは「人事ビッグデータ×AI」によって、人事面での生産性を高めています。グーグルの人事責任者であるラズロ・ボック氏は『ワーク・ルールズ!』(東洋経済新報社)で、同社の採用・育成・評価の内容について、次のように書いています。

「つねに発展的な対話を心がけ、安心と生産性につなげていく」
「(上司は部下に)あなたがもっと成功するために、私はどんな手助けができるかという心がけで向き合う」
「目標を達成する過程で発展的な対話を促す」
「発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない」

つまりグーグルの採用・育成・評価における「ピープル・オペレーションズ」では、「人事ビッグデータ×AI」が駆使されている一方で、発展的な対話が重視されていることに着目すべきでしょう。

高橋恭介・田中道昭『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)

筆者が団長を務めたイスラエル国費招聘リーダーシップのメンバーで、グーグルでの勤務経験をもつ女性起業家は、現在経営する会社においてもグーグル時代と同様に社内での対話を重視し、それが経営の生命線になっているといいます。「AIの王者」と目されているグーグルでも、人間の最もやるべき仕事は「人と人との対話」と考えているのです。

AI時代が本格的に到来するからこそ、「AIが人の仕事を奪うか否か」という議論に時間を費やすのではなく、本来、人が職場で最も重視すべきである「人と人との対話」を見直していくべきなのです。

そして、私は、人と人がつながり、仲間と仲間がつながり……というように「つながり」からしか創造できないような独創的な商品が続々と誕生してくるのがこれからのAI時代であり、人と人がつながってやる仕事こそが、最後の最後まで人に残される仕事ではないかと信じているのです。

私はこのほど1000社・10万人以上の「人事ビッグデータ」を分析した結果を『あしたの履歴書』という本にまとめました。その重要項目のひとつも「仲間とのつながり」でした。AI時代にどんなスキルを磨けばいいのか。ぜひ考えていただきたいと思います。

田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
(写真=iStock.com)
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