インターネット販売で業界に革新を起こしたライフネット生命は、2008年に産声をあげた。その創業者である出口治明氏が、今年6月の株主総会で会長を退任した。ライフネット生命は、出口氏が親子ほど年の離れた岩瀬大輔氏と2人で、戦後初めてゼロから立ち上げた生命保険会社だ。還暦を前に起業を決意し、二人三脚で同社を成長させてきた。が、出口氏は立ち上げから10年、古希を迎え、「先発完投をやめて、マウンドは若い世代に任せよう」と決意したと言う。そんな出口氏が、新たに取締役に指名したのが30代の若手2人。その心やいかに。指名されたうちの一人がゴールドマン・サックス証券出身の33歳、森亮介氏である。出口氏、森氏にそれぞれ話を聞いた。
出口治明氏(右)と森亮介取締役(左)。「森君は、課題について解決策を見つけ、それを執行する能力が非常に高い」(出口氏)「ライフネットらしく業界を動かすような大きな仕事をしたい」(森氏)

難しいディールを成功に導く「突破力」

――今回、まず33歳の森さんを取締役に選ばれた理由からお聞かせください。出口さんは本紙連載「悩み事の出口」で、求められる人材については「ゼネラリストではなくスペシャリスト」とおっしゃっていましたね。

【出口】「取締役」というのは、会社のリーダー、経営者ですよね。経営者に大事なのは、年齢に関係なく、きちんと仕事ができること。ベンチャー企業は山あり谷ありで、何が起こるか分かりません。当然、社員は不安です。だから「これだけ仕事ができるから、きっとこの人についていったらいい結果を出してくれる」と、みなから思われる人でなければなりません。

森君は、課題について解決策を見つけ、それを執行する能力が非常に高い。たとえばわが社は2015年にKDDIと資本・業務提携契約を締結しました。KDDIといえば、売り上げが何兆円もある巨大企業。こちらは100億円ですから、仰ぎ見るような相手です。そのような企業と折衝して、実際に交渉を上手にまとめる。交渉を進める上ではもちろん困難もありますが、なんとか解決策に落とし込む。その“突破力”は、見事なものです。

ベンチャー企業は単独では大きなことはできませんから、これからもいろんなところと協力していく必要があります。そういう意味では、きちっとディールをまとめる能力は、わが社にとってなくてはならないもの。それができる人の年齢を見たら、たまたま33歳だったということです。もちろん株主総会に提案し、株主の皆さんも納得して選んでくれた上で決まりました。