ネガティブな感情を完全に制御することは難しい。それでも「怒り」がいかに社会生活や家庭生活で不利益をもたらすのかを理解しておけば、すこしは抑制できるようになるかもしれない。「本当にあった怖い事例」を紹介しよう――。

心筋梗塞のリスクを高める「怒り方」

怒りは生理現象。健康によくないというのはなんとなくわかる。

「怒って興奮状態になると、人は、アドレナリンを活発に分泌します。アドレナリンには集中力を高めるなどプラスの作用もありますが、同時に血圧や心拍数を上昇させ、循環器系に高い負荷を与えます。高血圧の状態が続くと、それだけ心臓に負担がかかって心筋梗塞のリスクを高めますし、血管が切れて脳内出血を起こすこともありうるでしょう」

そう語るのは、新宿ゲートウェイクリニック院長の吉野聡氏。

「職場の雰囲気がめちゃくちゃ悪くなるぐらい、いつも周りに怒りを撒き散らしている40代の管理職の方がいたのですが、その方は、健康診断でも常に高血圧が問題視されていました。そしてある日、趣味のダイビング中、海から上がってきた瞬間に心臓系の疾患で昏倒し、そのまま緊急入院することになったんです。ベテランダイバーなので、減圧症などは考えにくい。その方は若いうちから怒りっぽかったそうなんですが、そういう方は、長年血管に高い圧がかかっていて、劣化も早いんです」

イライラするとインフルエンザにかかりやすくなる

血管は消耗品。若い頃のツケが今になって回ってくるとは恐ろしい。「イライラすると、血中に、コルチゾールというステロイドホルモンが増加します。このホルモンは炎症の治療などにも使われていますが、過剰分泌されると免疫力が低下し、風邪やインフルエンザなど病気にかかりやすくなります」

このコルチゾールは、「ストレスホルモン」とも呼ばれる。免疫力低下のほかにも、もう1つ、体に見えやすい変化を引き起こすこともある。

「血糖値を上げたり、脂肪を溜め込んだりする作用もあるんです。あるIT企業の40代の非常に優秀なエンジニアの話です。手がけるプロダクトは社内外からいつも高い評価を受け、出世して、プロジェクトチームを任される立場になったんですが、彼は上に立って人をまとめるのが大の苦手。そのうち思い通りに動かない部下たちに対して、毎日カリカリするようになったんです。すると、次第にブクブクと太り出し、18キロも体重が増加。食事量は変わっていなかったようなので、コルチゾールが関係していると思われます」