前原代表選出は民進党大分裂の序曲か

それだけでなく、民進党分断という狙いも見え隠れした。「9条第3項で自衛隊明記」は、公明党の検討案と同時に、先述のように前原氏の持論であった。安倍首相は民進党の改憲派も引き寄せる作戦で、リーダー格の前原氏をターゲットに、と企図したのだろう。

今回、民進党を背負うことになった前原代表は、憲法問題について、前述の「プレジデントオンライン」のインタビューで、こう述べている。

「創憲という立場。今の憲法をすべて守るということではありません。改憲の中身については是々非々です。議論には乗れると思います。自民党と公明党が憲法案を出してくれば中身の議論には応じます。ですが、自民党と公明党では多分、まとまらないでしょう。それでいいんですよ。野党再編との関係でいえば、改憲の中身についてある程度、議論しておけばいい。国民は社会保障や日頃の生活に重きを置いています。憲法改正は一義的に国民の関心事にはなりません」

この基本姿勢は3年後の今も不変と見て間違いない。改憲派だが、国民が改憲を最重要課題と捉えていない以上、憲法改正を優先的に推進する必要はないという考えである。

民進党内の「民・共」共闘派や護憲派は、細野豪志元幹事長ら離党者続出という流れを見て、党内の綱引きでいつまでも前原氏を少数派に押し込めておくと、党分裂は必至で、結果的に分断を狙う安倍首相の思うつぼ、と危機感を抱き、今回の代表選では前原氏選出を容認した。いってみると、党分裂阻止のための前原氏抱きつき戦術と映る。

問題は前原体制の民進党の今後である。代表選の争点のうち、分裂要因となりそうな主要テーマは、「民・共」共闘、維新や「小池新党」などとの連携、憲法改正問題だ。前原代表のリーダーシップで「反共・非自公・改憲是々非々」で党内を一本化し、自公政権に対抗する勢力を結集して、2大政治勢力による政権交代可能な政党政治を再現できるのかどうか。前原代表選出は党大分裂の序曲で、「民進党の終わりの始まり」と予想する声もある。その結果、「1強多弱」が長期固定化する可能性は大きい。

カギを握るのは、政党や政治家ではなく、国民の側だ。民意という点では、ポピュリズム横行の懸念はもちろん消えないが、何回かの政権交代を体験し、現状と将来を見据えて、総和として冷静な判断を示す成熟した国民の意思が決め手となる。