9月1日、前原誠司元外相が民進党の代表に選ばれた。これまで前原氏は党内では少数派に押し込まれていた。細野豪志元幹事長など大物議員が次々と離党するなかで、前原氏を代表に選ぶことで、党の分裂を阻止しようという「抱きつき戦術」にも映る。前原民進党は政権交代を実現できるだろうか。それとも党大分裂の序曲にすぎないのか。ノンフィクション作家の塩田潮氏が分析する。

「改憲メッセージ」は民進党の分断を狙った

9月1日の民進党代表選で、前原誠司元外相が党首に選出された。代表選では、共産党との選挙共闘、消費税増税、経済政策、野党間の連携や政界再編、原発とエネルギー、憲法改正問題などが争点となったが、前原氏はこれらの論争では長く党内で少数派だった。

9月1日、民進党代表に選出された前原誠司元外相。(写真=AFLO)

2014年6月、テレビ番組で日本維新の会との合流の可能性について 「100%」と発言して話題を呼んだことがある。党内では同調論ではなく、違和感が圧倒的に強かった。

前原氏は「プレジデントオンライン」の筆者のインタビューで発言の意図を、「政策・理念が共有できれば、他の野党と100%合流して自公政権とがっぷり四つを組める体制を整えることが大事。野党の『大きな家』をつくるという意味」と説明した。党再生か野党再編かという問題では、「非共産」での野党再編を視野に、という姿勢を示した。

「党内少数派」のもう一つの理由は改憲論者という顔だ。蓮舫前代表らと争った16年9月の代表選では、憲法第9条に第3項を設けて自衛隊の位置付けを明記する案を唱えた。

今回の代表選で争った前原氏、枝野幸男元幹事長とも、安倍晋三内閣が成立させた安全保障法制を憲法違反と断じる。その上で、憲法案については、枝野氏は「『専守防衛』の範囲で自衛権と自衛隊を憲法に明記して自衛権行使に歯止めを」と主張し、前原氏は「安保法制を残したまま、9条改正に手を付ければ、違憲の追認となる。今、改憲が最重要事項とは思わない」という姿勢だ。ともに「安倍流改憲ノー」を唱えて一線を画している。

だが、今年の5月3日、安倍首相が発した「改憲メッセージ」は、党内に護憲派と改憲派が混在する民進党の分断も企図した高等戦術だったと見ることもできる。

安倍首相は「新憲法の2020年施行」と併せて、「9条への3項追加による自衛隊明記」「教育無償化」を提唱した。前者は「加憲」の公明党で議論されてきたプラン、後者は維新が主唱する構想で、友党2党の抱き込みが安倍首相の目的と見た人が多かった。