情報認知はどうだろう? 運転中に計器を見る。メーターもあれば、液晶画面に示される車両情報もあり、ナビもある。こうした視認情報に使われる文字は、ほとんどのクルマでバラバラなフォントが使われている。高速で移動しているクルマの中では、文字を早く読み取ることが求められる。フォントの統一は読みやすさのために重要な問題だ。ただ格好良いからという理由で、凝ったフォントを使うことはドライバー中心ではない。機能と見た目どちらを優先するかは言うまでもない。マツダはこのフォントを統一し、情報をゾーニングして運転時に常時必要な情報と、それ以外を分別した。

視線をできるだけ下に下げずに運転しないための「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」。また、メーターのフォントを統一して視認性を向上している。

人を最適に座らせ、認知しやすい情報環境を整えること。当たり前のことのようだが、それでもマツダはようやくそこに到達した。これに関しては、他社との比較において明らかに頭ひとつ抜き出たと言える。

マツダブランドの埋没をどうやって防ぐか

さて今度はクルマの形である。以前の記事(参考:トヨタを震撼させたマツダの"弱者の戦略" http://president.jp/articles/-/22042)で、マツダがフォードに放り出されて、8車種のエンジンとシャシーを一気に新設計しなくてはならなくなったことについて説明した。同じタイミングでデザインにも新たな課題が突きつけられていたのだ。「マツダブランドの埋没をどうやって防ぐか」という課題である。

リーマンショックが起こった2008年、マツダの世界生産は135万台。世界のトップを争うトヨタ、GM、フォルクスワーゲンが1000万台の三つどもえ戦に入る頃、マツダの生産規模はその程度でしかなかった。トヨタの小型車・アクアの国内単月販売数はピークで3万5000台。しかしマツダの最量販車種であるデミオは、ピークで9000台に届かない。

トヨタと同じように、クルマ一台ずつの存在感で争ったら、マツダは埋没してしまう。何しろ国内販売台数でも競合車の4分の1、世界全体のトータルで見たら74分の1しかないのだ。めまいがするほどの差である。

元々決してブランドイメージが高くないマツダが「おっ! マツダも良いな」と言ってもらうためには、一台ずつのデザインを頑張っても勝負にならない。8台のデザインに少ない戦力を分散投資して疲弊した揚げ句「そんなクルマあったっけ?」と言われるのだけは避けなくてはならない。

8本の矢は折れない

マツダはフォード傘下を離脱して以降、「ブランド価値経営」を掲げ、全社のリソースを挙げてブランド価値の向上に邁進した。デザインも当然そこに含まれる。だったらマツダ全体のデザインをコモンアーキテクチャー化して、8車種全部でマツダをアピールするしかない。地元安芸の知将、毛利元就ではないが「8本の矢は折れない」という戦術だ。

こうして出来上がったのが、2012年2月以降発売の新世代商品群に共通する「魂動(こどう)デザイン」だ。前出の前田育男常務によれば、魂動デザインは、最初からデザインのコモンアーキテクチャーを目指したものであり、最高最良のデザインにマツダの全精力を注ぎ、それを8車種全てに適用することを意図していたという。「絶対に埋没しない」――前田常務はそのために魂動デザインと格闘している。

次回は前田常務の言葉を通して、魂動デザインが出来上がっていくまで、そしてそれによってマツダの何がどう変わったのかについて考えていくつもりだ。

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