「うんこ」で子どもの心をつかみ、260万部
私が20代だったとき、塾講師の先輩にこんなことを言われた。
「男子小学生と仲良くなりたいんだったらさ、その合言葉は『うんこ』と『ち●こ』だぜ」
私は子どもたちを指導する立場であり、彼らとは一線を引いて接するべきだと考えている。だから、友達にならなくてもいいし、今後なるつもりもない。よって、先輩講師の助言を聞き流した。
そんな昔のことをふと思い出したのは、『うんこ漢字ドリル』(文響社)が累計販売260万部(6.16時点)を超える大ヒットだというニュースを耳にしたからだ。ドリル内の書き取り・読み取り問題の一例を挙げてみよう。
「何年もうんこを見せていないなんて親不コウ*だよ」(書き取り)
「うんこ中の(私語)は禁止とする」**(読み取り)
*カタカナ部分の書き取り。同書内では下線付きのひらがなで表記。**( )内の漢字の読み取り。同書内では「私語」に下線付きで表記。
うんこ漢字ドリルには落とし穴がある!
書き取り・読み取りドリルの文例のなかに、必ず「うんこ」ということばが使用されている(同書の特設サイトによると、3018の例文すべてに「うんこ」ということばが含まれているらしい)。
なるほど。小学生、とりわけ男子にとっては魅力的なドリルである。なにしろ、家の中で「うんこ」と大声で叫んでも親から叱られるどころか、むしろ褒められるのである。なぜなら、それはドリルに夢中になって漢字学習に没頭しているということなのだから。
どちらかといえば「堅苦しい」内容だった従来の漢字ドリルには抵抗感を抱いていた子が、このドリルに喜々として取り組む。子が学ぶ楽しさを味わうきっかけになったケースも多いにちがいない。次作は、男子小学生をさらに虜にする『ちん●慣用句ドリル』などの刊行でシリーズ化を期待したいところだ(たぶん無理でしょうが)。
塾講師の目で見ても、この『うんこ漢字ドリル』はなかなか鋭い発想の賜物であり、随所に工夫が凝らされたレイアウト(「うんこ」のイラストであふれている)を見ても完成度の高いドリルだと感じる。ただし、残念なことに、ある落とし穴があるのだ……。