『うんこ漢字ドリル』では本当の力はつかない

続いて『うんこ漢字ドリル』の例文もアレンジしてみよう。

「うんこ中の(私語)は禁止とする」(カッコ内の読み取り)

やはりこの一文だけでは「私語」の意味が皆目見当がつかない。

書き取り・読み取りの文例には必ず「うんこ」がつく

それでは、このドリルの作成方針である「うんこ縛り」にのっとって、新たな読み取り問題の例文を提示してみよう。

「授業中、先生の話をまったく聞かずに友人と(私語)をかわしていたら、それを見た先生がいかりのあまりうんこを大量にもらしてしまった」

生徒も生徒だが、先生もなかなか困った人である……。それはさておき、「私語」の意味を知らない小学生であっても、この文に目を通すことでぼんやりとでもその意味を見出すことができるのではないか。私は漢文学者の故白川静氏の著作を好んで読むのだが、漢字はその一つひとつに「ストーリー」を背負っている。だからこそ、子どもたちに漢字の「外形」だけを覚えさせる練習をやらせるのは実にもったいないことだと考えている。

加えて言うならば、「うんこ漢字ドリル」に代表される“おもしろドリル”は勉強を始める好機になるかもしれないが、本当の意味での国語運用能力がつくわけではない。

親の「例文提示」で子どもは真の語彙力を身に付ける

先ほど「ぼんやりとその漢字(熟語)の意味を見出す」と申し上げたが、これは漢字や熟語に限った話ではなく、ことば全体に適用できる話である。

あなたはいまどれくらいのことばを知っているだろうか? そして、その中に辞書を引くことで獲得したことばはどれくらいあるだろうか? そう考えたとき、辞書を引いて身に付けたことばは案外少ないことに気づくのではないか。

つまり、血肉化された語彙というものは、周囲の会話内に登場したことばを耳にすることで、あるいは、本の中に繰り返し出てくることばを目にすることで、半ば自然な形で習得していく。よって、短い例文の中で漢字を覚えていくというドリル学習は、そういった自然習得とは真逆の世界にある。

私はこういうドリル学習にこそ、親のサポート、声かけが大切なのだろうと考えている。

つまり、一つの漢字を子が覚えようしているときに、親がその漢字を用いた「少し長めの例文」を複数提示してやることで、子がその漢字の意味を「ぼんやり」と見出していく。それを積み重ねることで、子が「文脈」の中で、確かな語彙力をゆるやかに獲得していけるよう働きかけていく。ことばの面白さ、奥深さを子が体感するように導いていく――。『うんこ漢字ドリル』を片手に、子とそんなコミュニケーションを楽しんでみてはいかがだろうか。

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