「働き方改革」の行方に注目が集まっています。今年3月には経団連と連合が、時間外労働への罰則付き上限規制の導入について合意。政府は労働基準法をはじめとする関連法案の改正に動き出しています。しかし、労働時間の見直しで残業代が減れば景気に悪影響がある、という指摘もあります。指摘は本当なのか。三井住友アセットマネジメントの渡邊誠シニアエコノミストが検証します――。

月60時間以上は8人に1人

「正規」「非正規」の不合理な処遇を解消するため、政府は今年3月、「働き方改革実行計画」(以下、実行計画)をとりまとめた。この実行計画は、多様な働き方を可能とするために、(1)同一労働同一賃金や、(2)長時間労働の是正について、ガイドラインの整備ならびに法的な手当てへの道筋をつけるものだ。こうした「働き方改革」は、日本の経済、そして我々の生活に、どのような影響をもたらすのだろうか。

まず、長時間労働是正の具体的な内容について確認しよう。労働時間の上限として、(1)時間外労働時間が年720時間(=月平均60時間)を上回ってはならない、その上で、季節的な繁閑を考慮しても、(2)単月では、休日労働を含んで月100時間未満、(3)2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月の平均のいずれにおいても、休日労働を含んで月80時間以内を満たさなければならない、とされた。なお、引き続き管理職や研究開発職については上記上限の適用除外となるほか、建設業、運輸業についても当面は適用が見送られた。

それでは実際、どれくらいの人が長時間労働に従事しているのか。総務省の労働力調査年報(2016年)をみると、月平均で60時間以上働く就業者の比率は、全就業者の11.9%で、約8人に1人という計算になる。業種ごとに月60時間以上働く長時間労働者の比率をみると、運輸業・郵便業で24.0%、建設業で15.3%と高いほか、宿泊業・飲食サービス業が15.1%、生活関連サービス業・娯楽業が15.0%、教育・学習支援業が14.7%など、いわゆる労働集約的なサービス産業で、長時間労働者の比率が高い。

ちなみに、厚生労働省の毎月勤労統計や賃金構造基本統計調査(賃金センサス)でも労働者の平均残業時間が調査されているが、労働力調査の平均残業時間のほうが長い。これは、厚労省の調査は事業所側の提出する残業時間(残業代の支払いを伴うもの)であるのに対し、総務省の調査は労働者を対象にしたもので、残業代の支払いを伴わないサービス残業や、場合によっては昼食時間なども含んでいるためとみられる。