人前で話すことが、どうやら日本人は苦手らしい。流暢に堂々と喋りたいと思っても、いきなりそこを目指すのは賢くない。まずは、脳の特性を活かして、人前で話すことの印象をよくすることから始めるのが正解なのだ。

なぜ人前だと話せなくなってしまうのか

会議、朝礼、プレゼン、自己紹介、面接、結婚式の挨拶と、人前で話す機会は多い。ところが、大勢の前で話すとなると、心臓はドキドキ、手には大量の汗をかき、足はガクガク震え、顔の筋肉がこわばる。頭が真っ白になって、しどろもどろ。そんな悩みを抱えている人は多い。

人前で堂々と喋れるようになりたい。どうして、人前だと話せなくなってしまうのだろう。

これまでに数多くのあがり症の克服をサポートしてきた、メンタルコミュニケーショントレーナーの金光サリィさんに話をうかがった。金光さん自身、極度のあがり症で苦しんだ経験を持ち、克服した一人だ。

「多くの人が間違うのですが、あがり症を治したいと思うと、つい上手に話すことを目指してしまいがちです。TED(※)に登場するスピーカーのように流暢に喋れるようになりたいと、話し方教室に通い、話の組み立て、間の置き方、声のトーンなど、いろいろな話し方のスキルを学びます。しかし、上手に話すことを目指しても、あがり症はなかなか克服できません」

※毎年大規模な世界的講演会を主催している非営利団体。講演会では、学術、デザインなど様々な分野の人物がプレゼンを行う。

多くの人が克服するアプローチを間違えて、遠回りをしていると金光さんは指摘する。

「一見、上手に話せていても、実はあがり症で困っている人もいます。何よりも大切なのは、人前で話すことの印象をよくすることです」

なぜ、あがってしまうのだろう。金光さんは記憶と大きく関係するという。

「あがり症の赤ちゃんはいませんよね。それが、人前で話したときに笑われたとか失敗したとか、その人にとって嫌な経験をすると、人前=危険な場所として記憶されることがあります」

病気でもないのに、心臓がバクバクいったり、冷や汗をかいたり、足が震えたり。〈あがる〉とは不思議な症状だ。