有能でも就けない最高指導者の地位

北朝鮮の前最高指導者である金正日の息子であり、現最高指導者である金正恩の異母兄の金正男が2月13日に殺害された。白昼堂々、マレーシアのクアラルンプール空港の第2ターミナルで、人々と監視カメラが見ている中での犯行である。現在、金正恩が暗殺指令を出したという疑いがあるが、真偽のほどはわからない。なぜなら、金正男は金正恩の地位を脅かすような存在ではなく、殺す必要があるようには思えないからだ。

異母兄弟の関係にあたる金正男(左)と金正恩(右)。(時事通信フォト=写真)

北朝鮮政府や支配政党である朝鮮労働党が公表している金正日の息子は、金正恩ただ一人である。しかも、金正恩は、父・金正日によって認められ、支配政党である朝鮮労働党によって推戴された正統な後継者だ。まして最高指導者になって5年も経っている。その地位は盤石といえよう。

ただし、韓国には金正男は後継者の資格があるという論説がある。どういうことかといえば、金正恩が最高指導者を継承するにあたって、朝鮮労働党が宣伝した正統性の一つに「白頭の血統」がある。これは、最初の最高指導者である金日成と金正日に続く血統でなければ、後継者の資格がないという理屈だ。なので「金正恩は母親が在日朝鮮人であるため『白頭の血統』としては低く、金正日の最初の子供である金正男が『白頭の血統』にふさわしい。だから金正男をうらやんで金正恩が殺害命令を出したのだ」と見る向きがある。しかしこれは説得力がない。金正男の母親である成蕙琳(ソンヘリム)も差別される韓国出身であるため、正統性が低い。まして、成蕙琳の兄は韓国で存命であるし、姉とその子はすべて海外に亡命している。さらに正統性がないといえる。