陰湿な運動に悲鳴をあげる女将たち

小池百合子都知事に対する自民党のネガティブキャンペーンが注目を浴びている。7月の都議選で劣勢が予想されている自民党は、築地市場の豊洲新市場移転問題を争点に掲げる戦略を描いているが、最近の「築地市場は危険」キャンペーンが市場関係者らの不評を買っているのだ。石原慎太郎元都知事を支持する論客には「豊洲への早期移転」論が浸透してきているものの、移転慎重派からは「営業妨害」との声があがる。豊洲移転を推進してきた自民党にとっては「この道しかない」と勝負に出たと言えるが、豊洲移転はそもそも築地市場跡地の売却収入を充てることが前提。「築地バッシング」を展開すればするほど築地の資産価値を損ねるジレンマも抱えそうだ。

「築地市場には安全性の疑義が生じていると言える。これでも安全だと言い切れるのか」

豊洲市場の当初の開場予定は昨年11月7日。混迷が続く。(時事通信フォト=写真)

3月27日の都議会予算委員会で、自民党の山崎一輝都議は築地市場の安全性を問題視し、小池氏に早期判断を迫った。自民党は豊洲新市場と耐震性などの面で比較し、早期移転を要求するが、この手法には築地市場関係者が悲鳴をあげる。築地市場で働く女性約50人で構成する「築地女将の会」は3日後に記者会見し、「自民党によるネガティブキャンペーンは執拗かつ陰湿で、看過できるものではない」「明白な営業妨害だ」と反発した。

早期移転論の中心は豊洲新市場と築地市場の安全性の比較だが、そもそも豊洲新市場の「安全・安心」の基準を振り返ると、その主張はブーメランとも言える。築地市場の老朽化に伴い移転先を検討していた東京都は、石原慎太郎知事(当時)が豊洲への移転を裁可した。石原氏は「豊洲の地下水を飲料水の環境基準以下にする」として、安全性のみならず市場関係者の安心のために「環境基準」というハードルを設けた。これは、もちろん都議会自民党も同調している。この環境基準に従って「合否」を判断する限り、小池氏が都知事就任後、環境基準を超える有害物質が検出されており、「否」だ。

自民党やその支持者を中心とした移転推進派は現在、「地下水を飲むわけではないのだから豊洲は安全」と声を揃えるが、皮肉にも高いハードルを設定したのは石原伸晃前自民党都連会長の父・石原氏だった。3月の百条委員会で、石原氏は「(環境基準の適用は)ハードルが高すぎたかもしれない」と語り、いきなり軌道修正を図ったが、自らが都民に約束した「安心」を違えることへの言及はなかった。