先人たちが築いてきたビジネスの仕組みや、成功へとつながるモノの考え方。世界を動かしてきた人たちから、自分なりの人生を生きた人たちから、何を学ぶ!? 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木 建さんが、一冊で極上の体験ができる“お得な”本たちをご紹介。

本を読むことは、単なる断片的な情報の入手とは決定的に異なる行為です。なぜなら、本には事実の断片ではなくロジック(論理)があるからです。ロジックとは、「なぜそうなったか」「要するにどういうことか」「本当のところはどうなのか」という個々の事実を結びつける考え方です。本には事実がロジックに基づいて詰まっているので、一冊読めば体系的に凝縮された知識が身につきます。

なかでもビジネス書は「抽象化」の能力を磨くことができる最適の教材です。具体的なことの細部をそぎ落として、ほかにも当てはまるように一段上の見方で捉え直すことを「抽象化」といいます。ビジネスではこの抽象化の能力が欠かせません。私たちが日々遭遇する出来事はそのままではほかに応用できませんが、『道端の経営学』などのように、それをひとつ上のレベルで語ったものを読めば、幅広くほかの状況やビジネスに適用できる考え方を体得できます。

もうひとつ、ぜひ読んでほしいのが歴史本です。読む効用としては、自分ひとりの経験は限られたものでしかないけれど、時間と空間を超えた疑似体験ができること。そして、それによって奥行きのある深い視点を持てることが挙げられます。たとえば、『おそめ』などの評伝や『日本を決定した百年』などの回顧録は、ある人があることを経験する前から後まで、一連の流れが描かれています。経験後の結果だけが示されるのと違って、「そうなってみて初めてわかる」ことを追体験できるのも魅力です。『ローマの歴史』のように、古代の人々の暮らしぶりや考え方が物語仕立てで書かれていて、歴史そのもののおもしろさが味わえるものもあるので、歴史はちょっと苦手だという人でもまず手に取ってほしい。

本は高くてもせいぜい数千円。圧倒的にコストパフォーマンスがいいことも強調しておきます。

▼ファイナンスと会計がまるわかり

『あれか、これか 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』野口真人/ダイヤモンド社

『あれか、これか 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』野口真人/ダイヤモンド社
ファイナンスと会計はどう違うのか、キャッシュとキャッシュフローの違いは何か、そして、会社や事業の価値をどう評価するのかがこれ以上なく明快に解説される。「選択」にかかわる、ブラック・ショールズなどノーベル賞を受賞した4つのファイナンス理論もわかりやすく説明。