2015年1月に相続税制が改正され、2年が経った。課税対象者が拡大し、相続対策への興味・関心が一気に高まっている。テレビやネットでおなじみの人気ファイナルシャルプランナーが改正後の現状と相続対策の基本を教える。

1、大資産家
2、資産家
3、普通の家
4、財産のない家

「日本の世帯をざっくり4分類したとき、かつて、相続税は大資産家と資産家にかかるものでした。今は3番目のうち『持ち家で貯金もそこそこある』世帯にまで課税対象が広がりました」

高橋成壽(たかはし・なるひさ)
ファイナンシャルプランナー
1978年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学在学中から独立を視野に準備を始める。外資系生命保険会社などを経て、2007年、寿FPコンサルティングを設立。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。

横浜市を拠点に活躍するファイナンシャルプランナー・高橋成壽さんが、相続税制改正の影響を説明する。

「ここ戸塚区は、ベッドタウンで、富裕層の街ではありませんが、新たに課税対象となる方がかなりいらっしゃると見ています。目安として、金融資産、不動産の市場価格の合計で1億円以上財産があるお宅。1億円というと遠い世界のようですが、預貯金3000万円と広めの一軒家を持っていれば届いてしまう。23区内なら、相当数のお宅が対象に入ってくるでしょう」

相続税は、金融資産や不動産から借金を引いた正味資産に対してかかる。相続税がかからないのは、3000万円+相続人の数×600万円まで。妻と子供2人を持つ夫が亡くなった場合、4800万円を超えると課税対象となる。改正前は、同じ条件で8000万円までは非課税だった。次ページ上表は、税制改正後の課税対象割合の増加などを示したものだ。全国平均で8割も増えており、相続税はもはや他人事ではない。

「相続が始まってからでは、打てる対策はほぼありません。相続対策=生前対策なのです。生前の相続対策にデメリットは一切ありません」

だが、話はそううまく運ばない、と高橋さんが続ける。

「子世代には生前対策を意識している方が多いのですが、親世代の関心はいまひとつ。相続の話になると、機嫌が悪くなったり、怒り出したり。税制が変わったことも知らず、自分は無関係と思い込んでいる方も少なくない。それでは生前対策はなかなか進みません。専門家の力を借り、具体的な案を見せたほうが話を進めやすいでしょう」

相続対策をサポートするサービスや商品は百花繚乱。何から検討してよいかわかりにくい。「『手始め』としてすべての人におススメできる」と高橋さんが太鼓判を押すのが遺言代用信託だ。

「資産を信託銀行などの金融機関に託しておき、亡くなった後、指定された家族が簡単な手続きで引き出せるようにしておける商品です。故人の預金口座は、金融機関が死亡の事実を知るとすぐに凍結され、容易に引き出せない。今のシニア世代は財産構成が夫名義に偏っているケースが多く、家族が葬儀費用や当座の生活資金に困ることに。家族のメリットが明確で、検討しやすいでしょう」

この商品を皮切りに、教育資金贈与信託や暦年贈与信託などの相続関連信託を活用すれば、贈与税を意識しながら、計画的に相続財産を減らせる。

「相続財産の4割」不動産をどう活用するか

写真を拡大
出典:「平成27年分の相続税の申告の状況について」(国税庁、東京国税局、大阪国税局)
東京国税局は、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県を管轄。大阪国税局は、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県を管轄。

現行の相続税制で、最も効果が大きい相続対策は「不動産の活用」だ。

なぜ、不動産が相続対策に有効なのか。まず、上グラフのように相続財産の4割は不動産が占める。そして、貯金や株などの金融資産はそのまま相続財産に算入されてしまう一方で、不動産は市場価格の1~2割まで評価を圧縮することができる。

所有する土地に賃貸物件を建てたり、新たに不動産を購入することで、金融資産を不動産に組み替え、相続財産を大幅に圧縮できるというわけだ。

しかし、「不動産を買ったり、賃貸経営をしたりすれば十分というものではない」と高橋さんは釘を刺す。

「不動産の活用で重要なのは、次世代のために『財産の出口』をしっかりと確保すること。つまり、収益性があること、売りたいときに売れることです」

では、具体的にどのような不動産を検討すればよいのだろうか。

「賃貸経営するなら、ローコスト住宅で初期費用を抑えるのも手ですが、あえてブランド力のあるハウスメーカーで高品質の住宅を建てておくのもまた一考です。良質な物件なら、入居希望者が途切れるリスクが低く、売却するときも必ずプラスに働きます」

新たに不動産を買う場合はどうか。

「人気なのは、マンションやオフィスの区分所有です。今は都心部の物件なら需要が旺盛で空室になりにくい。複数持つことでさらに空室リスクを分散でき、財産を分けるときに分けやすいなど、メリットが多い。収益不動産ならシニア世代でも融資が受けやすい。今ならマンション1棟まるごとをローン購入し、賃貸経営することも可能です」

不動産を活用した相続対策は、実に多彩。ただ、専門知識が必要なため、自力で挑むより、まずはパートナーを見つけるところから始めたい。

「今後は、相続対策がうまくいく家、いかない家の二極化が進むでしょう。法律に従っての対策となるため、知識を持っている人が得をし、知らない人は損をする。だからこそ、パートナーの力が欠かせません」

信頼できるパートナーを見つけるべく、まずはさまざまな相談会やセミナーに参加してみるといいだろう。

(漆原直行=文 黒坂明美=撮影)