なぜセラピー犬は認知症患者を笑わせられるのか?

埼玉県川越市にある「トワーム小江戸病院」は、認知症の症状を改善する方法のひとつとしてドッグセラピーを取り入れています。その様子を見学させてもらいました。

案内されたフロアには、車椅子に座った3人の患者さんと、3組のドッグセラピストと犬がいました。セラピードッグはそれぞれのセラピストが飼育している愛犬です。

奥の窓際にいる男性患者はおとなしく座っているラブラドール・レトリバーの頭を黙って撫でています。犬の方も、あごを患者さんの膝にもたせかけ、気持ちよさそうにしています。その隣にいる女性患者はトイ・プードルを抱っこして微笑んでいます。そして、もうひとりの女性患者は、足元にいるスピッツを笑顔で見ながら、「私も昔、スピッツを飼っていたのよ。この子はいくつなの?」などとセラピストと昔話を交えた会話をしています。

3人とも認知症の症状が出ているとのことですが、会話は成立していましたし、表情も穏やか。とても認知症の患者さんとは思えませんでした。

認知症の症状には記憶障害はもとより、日時や場所の感覚が失われ、自分が置かれた状況を判断できない見当識障害、言語機能が失われる失語、五感による認知力が衰える失認、目的とする行動の方法が分からなくなる失行といった高次脳機能障害、気持ちが落ち込んでやる気を失う抑うつなどがあるといわれますが、ここで犬と触れ合っていた3人の患者さんに、そうした部分はまったく感じませんでした。笑顔で犬に触れ、普通に会話をしているのですから。

セラピストの篠原知子さんは言います。

「記憶が改善されることはないようですが、心が穏やかになられることは確かです。ワンちゃんと触れ合っている時の患者さんの写真を撮って、面会に来られたご家族にお渡しすることがあるのですが、あるご家族は写真を見た瞬間、ビックリされました。“お母さんが、こんな笑顔を見せるなんて信じられない”と。ご自宅で介護をされていたときは、いつも無表情。すべてを拒絶する感じで会話も成り立たなかったそうです。それが別人のように笑顔を見せている。ドッグセラピーの時は、よくお話もされますよと伝えると、ご家族も喜んでおられました」