セラピー犬のいる高齢者施設に学ぶ「介護のコツ」

ヘルパーなど介護サービスを行なう人たちは対応の仕方を心得ていますが、規定の時間内に行う仕事ですから、介護される側も言われたことには従わなければなりませんし、緊張もするはずです。

その点、犬には気をつかわなくていいし、負い目を感じることもない。ありのままの自分を受け入れてくれる犬と接することで心が開かれ、笑顔を取り戻すというわけです。

ところで、ドッグセラピーでトラブルが起きることはないのでしょうか。

「稀にではありますが、犬を抱っこする時に強い力を入れる方がいます。別に悪気ではなくて、力の加減がわからなくて起こることなのですが、犬はビックリしますし、ケガをする危険もあります。ですから、そういう傾向がある方には、セラピストが前もって握手をしてみて、力の入れ具合は大丈夫か確かめます。また、犬に触れる際、撫でることから始めるといった配慮をしています」(篠原さん)

ここで気になるのは犬の側のストレスです。

「ストレスを感じることはあると思います。セラピー犬には人懐っこいという適性があるコがなるので滅多にないのですが、触られるのを嫌がるとか逃げ腰になるといったいつもと違う反応をすることがあります。私たちセラピストは、いつも一緒にいるパートナーですから異常がわかる。犬の心身の健康も大事ですから、そういう時は“下がります”と言って休憩所に戻るようにしています。その代わりに休憩所にいた犬を連れていくこともあります」

同病院では、こうした細やかな配慮のもと、ドッグセラピーが行われています。実際にドッグセラピーが行われている現場を見て、セラピストの話を聞き、認知症の症状を改善する効果があることを実感しました。

しかし、ドッグセラピーが行われている高齢者施設や病院はまだ少数。いいものであるはずなのに、全国に拡がっているとはいえません。

ドッグセラピーを行なうにはいくつかのハードルがあるといいます。まず、生き物である犬の管理を誰がするのか、という問題があります。高齢者は免疫力が落ちているので、衛生面には細心の注意を払わなければなりません。

そして何より大きいのは費用の問題です。犬の購入、飼育、管理には世話をする人の人件費も含め、かなりの負担になります。同病院ではセラピストの愛犬をセラピー犬にする形をとっているため管理や衛生面はクリアしていますが、専従のセラピスト5人の人件費がかかるため、採算が合う事業ではないとのこと。それでも行っているのは「やってみなければ何も生まれない」という同病院の運営方針からだそうです。

いくつものハードルを乗り越え、ドッグセラピーを行なっている施設は同様の姿勢があるのではないでしょうか。認知症で笑顔を忘れてしまった方(とくに犬好きの)のご家族は施設探しの条件にドッグセラピーを入れて検討してみるのもいいかもしれません。

(トワーム小江戸病院=写真提供)
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