原発が稼働すれば事故対策費用も賄える
昨年末、東京電力福島第一原発事故に伴う廃炉および賠償、除染費用の合計が約22兆円になることが発表された。これは、経済産業省の「東京電力改革・1F問題委員会」が試算したもので、従来想定していた11兆円が一気に2倍に膨らんでいる。このニュースが流れた直後、電気料金への影響を懸念した家庭は多いのではないか。
しかし、増加した費用の内、廃炉費用は東電が合理化により捻出した利益で負担し、除染費用についても国が保有する東電株の売却益などが当てられる。賠償費用については、東電を含む大手電力が基本的に負担するが、福島第一原発事故前に確保しておくべきだった賠償への備え不足として、新電力の需要家からも約2400億円を上限に負担が求められることになった。これは一般標準家庭で月額18円相当の負担にあたる。
事故対策費用の増加による、発電コストへの影響を見てみよう。15年度に経産省が「長期エネルギー需給見通し」で試算した原発のコストは、1キロワット時当たり10.1円。これには事故リスク対応費用として、約12.2兆円が含まれており、この費用が1兆円増加すると0.04円が加算される。つまり、22兆円に増えるということは原発のコストが約0.4円アップすることになるが、それでも他の電源(LNG火力は13.7円/kWh、住宅用太陽光は29.4円/kWh)よりはコスト競争力がある。
「もちろん、原発事故は起こってはいけなかった。だが、それを十分に反省し、原発を全て停止にするのではなく、安全性を高め、再稼働に向かうべきだ。福島第一の廃炉等の費用は必要だが、原子力が稼働すればその儲けで追加負担はゼロにできるのではないか。例えば、東京電力柏崎刈羽原発の1~7号機を動かせば、年間1兆円は稼げる。福島第一原発の廃炉期間は40年とされるが、東電が毎年必要な金額は賠償を合わせても毎年5000億円なので十分に間にあう計算だ」
こう話すのは、元経産官僚でエネルギー問題に詳しい社会保障経済研究所代表の石川和男氏。
「それにもかかわらず、原子力発電所が全国で現在3基しか再稼働していない背景には政治的問題がある。あえて誰も火中の栗を拾おうとはしない。日本人特有の核アレルギーがあるだけに、政府にしても60%という内閣支持率が下がることは避けたいのだろう。」(石川氏)