企業が採るべき選択肢とは

では、流通業を中心とした各企業は、どのような対応策を採ることになるのでしょうか。単純化すれば、次のような選択肢が考えられます。

(1)正社員と非正規社員の仕事区分を明確にし、現状の賃金格差を正当化する

「同一労働には同一賃金を支払いなさい」という考え方ですので、同一労働ではないことを証明できれば、同一賃金にする必要はありません。そのため、役割分担の見直しや、職務や責任範囲の明確化、といった取り組みが進むでしょう。

(2)従業員数を削減し、生産性を引き上げる

賃金単価が上がるなら、その分の人数を減らすという方向性です。日本の労働生産性は、先進諸国の中で最低水準と言われています。特に小売業やサービス業では顕著です。例えば、現在は食品売り場のレジが10台あれば、自動レジは1台か2台でしょう。これからは、省力化のため10台のうち有人レジが1台か2台、しかも有人レジを通れば値段が割高になる、といったことになるかもしれません。

すでに、ガソリンスタンドはセルフ化が進んでおり、日常生活に溶け込んでいます。アメリカのスーパーマーケットなどに行けば、広大な売り場に対して、従業員は疎らです。イオンやヨーカドーの売り場が、コストコのようになるイメージでしょうか。

(3)値上げにより、生産性を引き上げる

それでなくても人手不足の昨今、これ以上従業員数は減らせないし、かといって資金もなく思い切った省力化投資も難しい。人数が減らせないなら、販売価格を引き上げることで、1人当たりの生産性(付加価値額)をアップさせるという手段もあります。イオンのケースでも、平均3%の値上げができれば、営業収入8兆円に対して2400億円となり、パート時給引き上げによる人件費増が賄えることになります。とはいえ、1社だけ値上げに踏み切るのは、なかなかできません。隣のスーパーに客足が流れてしまうからです。

(4)正社員の賃金水準を引き下げる

正社員と非正規社員の給与水準を同じにしなければならないなら、その中間に両者を近づける、という選択です。いきなり正社員の月給を下げることはできませんので、まずは賞与を減らしていくことになるでしょう。(1)~(3)の手段を採れない会社は、結果的にこの方向に進むのではないでしょうか。