日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

原単位が分からないようでは、経営はできない

「ちょっと名刺を見せてくれ」

再建担当役として日本電産シバウラに派遣されていたとき、私は永守重信社長にこう言われ、自分の名刺の入ったケースを手渡したことがありました。ケースの中から私の名刺を取り出して眺めた永守社長は、次に、こう問いかけてきました。

「ああ、両面印刷だな。カラーか。これ、200枚いくらで買っているんや?」

名刺の手配に関しては総務にお任せの私は、「いや、ちょっと分かりません」と答えました。そのあとも永守社長の質問と、私のモジモジ状態が続きます。

「そうか。じゃあ、そこにあるコピー機、A4が1枚のコピー代はいくらかかる?」
「いやあ、それも総務に聞かないと、ちょっと分かりません」
「あそこに見える工場、1キロワットあたり、電気代いくらだ?」
「いやあ、ちょっと……」
「先日、中国に工場建てたな。そこの電気代は?」
「……」

ここで永守社長が一言。

「君ね、よくそんなんで経営できるね」

続けて次の言葉が発せられました。

「経営は原単位だぞ。原単位を押さえてないと経営はできないんだぞ」

永守社長のこの一言で、私はガーンと打ちのめされました。原単位を把握しない、ディテールを把握しない経営は経営ではない。経営者たる者、上から会社を眺めているだけでなく、社内の誰よりも細部についても把握しておくべきだと。

これは中堅リーダーの場合であっても同じでしょう。自分の発する号令が部下に対して説得力を持つのは、こういう単なる細かさを超えた視点の鋭さ、ビジネスに対する真摯で厳格な姿勢が垣間見え、相手がそれを感じるからこそだと思います。