虫歯の治療に訪れた歯医者で、高額なインプラントや矯正を勧められることが少なくない。なぜなのか。業界の裏事情を明らかにする。
講習会に出れば「認定医」になれる
チタン製のボルト(人工歯根)を顎の骨に埋め込む、インプラント治療。強く噛めて、入れ歯のように取り外す手間もない。「ブリッジ治療(抜歯した後に人工の歯をはめ込む)だと周囲の歯を削るので、歯の寿命を短くしてしまう可能性がある」とインプラント治療を勧める歯科医も多く、インターネットで派手に宣伝を繰り広げている。
歯科医院が1カ月に得る保険の診療報酬は、平均約292万円(厚労省・第20回医療経済実態調査より算出)。保険対象外のインプラント治療は、1本あたり20万~50万円。売り上げの多いクリニックでは、1日で保険診療の1カ月分以上を稼ぎ出す。インプラント治療は極めて利益率が高いのだ。
それでも満足のいく治療を受けられればいいのだが、実際は経験の浅い歯科医を寄せ集めて手術を担当させ、コストダウンをしている施設もあると元関係者が証言する。歯科医であれば、誰でもインプラント治療を行うことが許されているからだ。
きちんとしたインプラント手術を受けられるクリニックは、どう見分けたらいいか。ホームページでインプラントの「専門医」「認定医」をアピールする歯科医は多い。だが、そこにはカラクリがある。インプラント関連の学会が、おのおのの基準で「専門医」「認定医」の称号を出しているのだ(表参照)。メーカーが実質的に運営しているコースでは、そこに参加するだけで認定証が与えられるので、「認定医」であってもインプラント初心者という冗談のような現実がある。
インプラント治療の先駆者として、カリスマ的存在である小宮山彌太郎氏(ブローネマルク・オッセオインテグレイション・センター院長)。彼のもとに、現在の状況を反映した患者が訪ねてくるという。
「ブリッジが適応症の部位にインプラントが埋入される、あるいは上顎の骨を突き抜けて副鼻腔にインプラントが入り込んでしまい、感染をきたした例もありました。許せないのは、不適切な治療を行った歯科医が責任を取らず、見放してしまうことです」
ただ、2007年にインプラント治療による死亡事故(動脈損傷による出血多量)が発生して以降、様々な問題点が報道されるようになって、歯科医たちのターゲットが変わりつつあるという――。それが矯正歯科だ。