イノベーションが日本経済のカギを握る

歴史を振り返ると、人類は人口を巡る議論に右往左往してきた。いま先進国における人口減少が社会問題化しているが、紀元前2世紀の古代ギリシアでも人口減少が問題視されたという。

その一方で、過剰人口が社会問題となり、日本でも海外への移民促進策がとられた時代があった。アメリカやブラジルへの移民は広く知られており、満州国についても過剰人口の受け皿としての狙いがあった。

著者は、マルサスの『人口論』の世界があたかも虫の世界を描いたように映るという。その通り、生物学者チャールズ・ダーウィンは、マルサスの理論にインスピレーションを得て『種の起源』を著した。ダーウィンが打ち立てた理論は、動物界と植物界の理論として確立されたが、肝心の人間の世界では必ずしもマルサスが描いたシナリオどおりには動かなかった。

経済成長をもたらすのは何か。著者は、人口ではなくイノベーションだと指摘する。それも、新しい財やサービスを生みだす、プロダクトイノベーションにより、1人当たりのGDPをいかに伸ばすかがカギになるという。

日本経済は、イノベーションと労働生産性を高めることで、少子高齢化社会を克服するかもしれない。しかし、社会福祉の財源と地方の衰退という問題がある。人口減少時代に向け、少子高齢化をチャンスに変える政策、方向性を考えるべき時代になったといえる。未曽有の少子高齢化、人口減少時代を迎える中にあって、ゆめゆめ備えは怠れないのだ。

経済成長は本当に望ましいのか、人間にとって経済とは何かという、本質的なテーマへと展開していく。新書の体裁でありながら、読み応え充分な1冊である。

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