A3用紙1枚に書かれた方針書

日本電産は、2015年3月期の売上高を1兆円に乗せた。だが、そこで満足することなく、永守重信会長兼社長は20年に2兆円、30年には、なんと10兆円を狙うという目標を掲げている。

同社の強みは“スピードと徹底”にある。とりわけそれは、永守社長の中核戦略であるM&Aにおいて発揮される。基本的には、高い技術力を持ちながらも、マネジメントの力量不足で赤字に陥っている会社を買収。1年で黒字化することを前提にして、徹底した経営改革を行う。

50代の半ばに日産自動車を役職定年で辞し、日本電産に入った私は2、3社の再建を手がけた。入社して8カ月ほどM&A物件の審査、交渉をしたあと、最初に派遣されたのが東芝傘下の芝浦製作所からM&Aしたモーターの会社だ。社員数約1000人で、140億円の売り上げがあったにもかかわらず、年間約40億円の赤字計上を余儀なくされていた。

私は、日本電産シバウラ(現日本電産テクノモータ)と名を変えた同社の早期再建に全力で取り組んだのである。従来の役員を残し、私は専務の立場で工場に赴いた。その私に、永守社長から手渡されたのがA3用紙1枚に書かれた方針書である。そこには「生産性を3倍」のような非常に厳しい目標数値が示されていた。なにしろ、生産性を3倍ということは、9人で行っていた工程を3人にしろということだ。もうひとつが「半年で経費の3割カット」だった。

企業再建にウルトラCはない。地道にコストダウンと売り上げアップを図るだけだ。経費については、日本電産には「売上高1億円に対して経費は500万円以下にせよ」や「材料費は売り上げの50%以下」という基準がある。これをグループ会社となった日本電産シバウラにも例外なく適用するわけだ。

これはいわばコスト面での改革だが、営業強化面の目標レベルが高い。売り上げに関する項目にあったのは「営業担当者1人当たり、月間顧客訪問数100件」だった。確か、全国の支店に60人余りの人員がいたと記憶している。

彼らのそれまでの件数は、月に30件程度でしかなかった。