「路線価」に注意。うっかり払いすぎも

そのうえ現在、空き家は「思わぬトラブルのもとになりかねません」(天野氏)。人が住まない建物は劣化が早く、雑草だらけの庭は隣近所の迷惑だ。そのうえ15年5月からは、自治体に「危険な空き家」と認定されたら小規模住宅に対する固定資産税の優遇措置が取り消され、更地並みの高い税額を支払わされるというリスクもある。

そこで天野氏が選択肢のひとつとして提案しているのが、実家を「記念館」として残す方法だ。といっても一般に公開するわけではなく、母親や家族の記念品を集めて置くだけの場所である。それだけではあるが、「年に何回か親族が集まって、思い出話ができる場所があるというのはいいものです」と天野氏はいう。

記念館は相続トラブルの防止にも役立つ。相続の際には資産の分割とともに親の思い出の品を形見分けする。金額に換算すればささやかでも、誰が何を引き継ぐかで感情的になり、もめることも多いという。「おかげで親族間の感情がもつれてしまい、遺産分割協議も始められないといった、深刻な対立に発展するケースも少なくありません」。

実家を記念館として残すことにすれば、「遺品はひとまず記念館に」ということができるので、形見分けトラブルのリスクは回避できるというわけだ。

また、これまで相続税とは無縁だった人たちが課税対象になるため、相続税に詳しくない税理士に申告を依頼し、必要以上の相続税を支払ってしまう例も増えたという。

「私どもでは相続税の申告のやり直しをお手伝いするケースも多いのですが、これまでに340件で総額91億円の還付がありました。平均すると2647万円です」

なぜ、そんなに払いすぎてしまうのか。多くの場合、不動産の評価が関係している。路線価×面積で計算するのが原則だが、土地の形状や立地条件などによって多くの減額措置(減額要因)が認められている。相続や不動産に詳しくない税理士だと、そうした適用可能な減額要因を見逃してしまうおそれがある。また、知っていても税務署との交渉で及び腰になり、その結果、時価1000万円の土地の相続評価額が10億円とされてしまうケースもあるという。

今回の税制改正では、相続時精算課税制度に振り回される人も出てきそうだ。この制度は、まとまった金額を子供に贈与する際に贈与税を免除し、将来相続が発生したときにまとめて相続税として再計算しようというものだ。2500万円(マイホーム資金の場合は、別途住宅取得資金にかかる非課税限度額を加算した金額)までなら無税で贈与できる。

しかし、今回の相続税課税最低額の引き下げで、この制度の利用者が相続税の課税対象になる可能性がある。課税対象になれば、いざ相続というとき、かつて贈与された分の相続税も支払わなければならない。想定していなかったとしたら、かなり手痛い出費になるだろう。