悩みや苦しみを和らげるために生まれた仏教。ビジネスマンの代表的な悩みである「人間関係」について、徳雄山建功寺の枡野俊明住職にお話をうかがった。

ビジネスマンの最大の悩みは「人間関係」と、あるアンケートにありました。社内の上司、同僚、部下、そして取引先といろんな付き合いがありますが、どこかで「できる人と思われたい」「いい人と思われたい」というのはありませんか? 本来の自分よりプラスα、高く相手に思われたいと思っている人が多いのが、現代の特徴です。

建功寺住職 枡野俊明氏●1953年、神奈川県生まれ。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。庭園デザイナーとしても評価が高い。多摩美術大学教授。

禅では<露堂々(ろどうどう)>といいますが、自分以上でも以下でもない、ありのままの自分でお付き合いをすべきなのです。もちろん、自らよくありたいと思い行動するのはいいことですが、人からよく見られたいという意識があると、無理を招き疲れてしまうのです。

「理解してもらう」「評価してもらう」というように、相手を動かそうとすると悩みが生まれてきます。理解されたいのなら、まずは、一生懸命伝える努力をしてみる。それでも理解してもらえないときは「あ、そういうものか」と割り切ってしまうことも大切です。

人それぞれ、生き方も価値観も違うということを大前提に、相手のいいところを見た付き合いが大事ですが、そのうえで、なにも無理してまで付き合うこともない、という精神的な強さも必要です。

相手の評価が気になるのは、他人と自分を比較しているからです。しかし、本来人間の価値は比べようがありません。自分の本分を生きればいいのだと、意志を強く持つことです。

なにごとも好嫌、優劣、勝負と白黒をつけるのも問題です。仏教は<中道(ちゅうどう)>といって、黒白を決めません。干渉せず、お互いに成り立つようにグレーでいきましょうというのが仏教のスタイルです。同じく<共生(ともいき)>というのも仏教用語で、人間も自然もともに命があるものだから、お互いを尊重し、一緒に生きていくような暮らしをしないといけないよ、というのが仏教の考えなのです。