この夏、プレジデントオンラインの読者にお勧めしたいビジネス書として5冊を選びました。普段なかなか読めないような骨太なものを3冊、仕事のやり方を見直すきっかけを与えてくれるものが2冊です。

USJの業績を急回復させたマーケティング理論

左から、『確率思考の戦略論』(KADOKAWA/角川書店)、『ビッグ・ピボット』(英治出版)、『ハーバード・ビジネス・スクールの投資の授業』(CCCメディアハウス)

最初にご紹介するのは『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(森岡毅、今西聖貴著/角川書店)です。著者の森岡氏は、経営難に喘いでいたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の業績をV字回復させた立役者。元P&Gの北米本社でマネジャーをされていたエリート中のエリートで、数学的な確率論を基にしたマーケティングの基本が書かれています。本の後ろには一見難解と思われる数式がズラリと書かれていているのですが、数学的知識がなくても十分に読めます。

企業戦略で成功確率を高めるには市場構造を理解する必要があり、その市場構造を決定づけているのは消費者の「プレファレンス」(相対的な好意度)である。経営資源はそこに集中すべきであるという、基本中の基本を論じています。これはドラッカーの言う「顧客の創造」に通じる考え方ですが、そのための最重要の鍵が「プレファレンス」であると明言し、森岡氏がUSJでそれをどう実践したかが具体的に紹介されています。

次にご紹介する『ビッグ・ピボット――なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』(アンドリュー・S・ウィンストン著/英治出版)は、いま世界企業で起きている経営戦略の大転換について多くの事例を挙げながら解説した書です。なぜ、大転換が必要なのかと言うと「環境」「社会」「ガバナンス」において、これまでのやり方では対処できない新しい潮流が発生しているからです。

例えば、今どきはあらゆる製品の製造請負・調達先の分散が進み、何か問題が生じたときにサプライチェーン全体が影響を受けるシステムになっています。ときには遥か彼方の国や地域で発生した事故や災害が、思いもよらぬカタチで自社に降りかかってくるかもしれません。資源や原材料の価格高騰が起こり、ある日突然これまでのビジネスが通用しなくなる状況に陥った――そんな具体例が数多く紹介されています。

あるいは以前は環境対策と言えばコストが嵩むもので企業アピールでしかありませんでしたが、近年は状況がまったく逆になっています。例えば「輸送コストの削減」はどの企業にも大きなテーマですが、米運輸大手のUPSはトラックが左折しなくて良いルート(※日本であれば右折回避)を選ぶことで信号待ちの時間とアイドリングを削減し、収益アップを実現しました。このように、環境という制約をクリエイティビティの発揮によって克服し、成長に結びつけた興味深い事例も多く挙げられており、勉強になります。

骨太の3冊目は『ハーバード・ビジネス・スクールの投資の授業』(中澤知寛著/CCCメディアハウス)、こちらは純然たる投資本です。現在ニューヨークで投資プロフェッショナルとして活躍する中澤知寛氏が、ハーバード・ビジネス・スクール在籍中に学んだ3人のスター教授陣の教えについて書いています。この3名の教授の「目の付けどころ」が非常に興味深く、これまでどの投資本にも書かれていなかったポイントです。

例えば「人間の認知バイアスとインセンティヴ」という視点から、株のパフォーマンスを見抜く技術について。具体例を挙げるなら、ある企業の重役が株を売った場合、(1)その重役が企業の本拠地に住んでおり、(2)重役でも下級幹部であり、(3)その企業のガバナンスが緩いとその後株価が下落する傾向があるなど。あるいは企業の決算がネガティブサプライズだった場合、週中と週末の発表ではその後の株価の下落傾向にどのような違いがあるか、など。投資をしている人には大いに参考になるでしょう。