「いい立場」をめぐる激しい攻防戦

ニートと呼ばれる若者たちは、社会での立場が“ない”状態だったわけです。そもそも立場とは、何かしらの社会的組織やコミュニティに属することから発生するわけであって、どこにも属さなければ、そもそも立場も生じません。つまり、「いい立場」にも「悪い立場」にもならない。ニートであるということは、自分の立場を空白にしておける、ということにもなります(家庭内では別ですが)。しかし、会社員生活は嫌だとしても、やはりどこかに所属したいという欲求はあって、NEET株式会社に新しい「居場所」を求めてきたというメンバーはたくさんいました。

固定の仕事や報酬もなく、成果が出るのかも分からない組織に所属したところで、社会全体からの評価がよくなるわけではありません。いや、もはや所属しているだけで「微妙な立場」だと見られてもおかしくないわけです。だから、何も持たない者同士が集まったNEET株式会社の中での立場なんて気にする必要がないように思うのですが、不思議な事に、メンバーの多くがその新しくて小さな(価値があるのかすら分からない)コミュニティの中で、「いい立場」を得ることに躍起になり、激しいエネルギーの衝突と攻防戦が生じました。

どうやら、重要なのはコミュニティそのものの社会的な価値やステータスではなく、その中で自分がどんな立場なのか、ということのようです。

これは別にニートと呼ばれる若者だけに限ったことではないと思います。たとえば、有名な大企業などに就職すれば、それだけで社会からは「いい立場」を得られたように見えます。けれども、その安定した大組織の中でも「いい立場」を得られる人は一部であり、そうでなければ居心地の悪い思いをすることになります。

報酬や仕事内容だけでは人生が幸せにならない時代です。世間的からはそこにいるだけでポジティブな評価を得ることができるような組織に所属していたとしても、その中で「悪い立場」になってしまい、それが固定化してしまったら、意味がありません。