個人も法人も収益の源泉である資産の実力を見極めよ

2016年3月12日(土)

個人も法人も収益の源泉である資産の実力を見極めよ

PRESIDENT 2016年4月4日号

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アベノミクス以降、量的・質的金融緩和が進んでいる。これは何を意味するのか、今後の資産運用環境はどうなっていくのか。不動産エコノミストの吉野薫氏に解説してもらった。

吉野 薫●よしの・かおる
一般財団法人 日本不動産研究所
研究部 研究員
不動産エコノミスト


東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。日系大手のシンクタンクのリサーチ・コンサルティング部門を経て、2011年より現職。国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究などを担当している。著書に『これだけは知っておきたい「経済」の基本と常識』(フォレスト出版)などがある。

 
──資産運用を行う上で、国の金融政策を把握しておくことは重要です。現在行われている、量的・質的金融緩和とはどのようなものでしょうか。

【吉野】アベノミクスにともなう金融政策として2013年の4月に導入されました。それまで日銀は、主に金利の操作によって金融政策を実施していましたが、このときから操作の対象をマネタリーベースに切り替えたのです。マネタリーベースとは、世の中に出回っている現金と金融機関が日銀の当座預金に預けているお金を合わせたもの。当時の金利はゼロに近い水準でしたから、その操作によってさらなる金融緩和を行うことは困難でした。そこで、お金の「量」を調整することで金融政策を実施しようとしたわけです。

当初は、毎年60兆円から70兆円のペースでマネタリーベースを増加させると宣言していましたが、14年10月にはそのペースを毎年80兆円まで引き上げました。また、マネタリーベースを増やすために、日銀は市場から短期国債を中心に買い入れていましたが、13年4月以降は長期国債も買い入れるようになりました。これは長期金利の引き下げを狙ったもので、質的金融緩和と呼ばれています。

さらに、この2月から実施されているのがマイナス金利です。これは金融機関が日銀の当座預金に預けているお金に対する金利をマイナスにしたもの。このような一連の金融緩和は、13年1月に導入した年2%のインフレターゲットを実現させるのが目的です。

──インフレターゲットについてはどのように評価していますか。

【吉野】そもそも、なぜインフレを目指すのか。それは、日本経済が成熟し、低成長の時代に入っているからです。物価の上昇によって、経済の好循環を生み出そうとしているのです。その効果には賛否両論ありますが、心理的な効果は大きいと私は考えています。
例えば、多くの人が「物価は2%上昇する」と考えれば、物価はその方向に動いていく。欲しいものは来年まで待つより、今買った方が有利だと考えるからです。すると足元の需要が高まり、物価の上昇圧力が生まれます。ですから、人々の心が「物価の上昇を信じる」ということが大事なのです。金融当局がそれを分かりやすくアナウンスするのがインフレターゲットというわけです。

──その効果は表れてきていると思いますか。

【吉野】現時点での判断は難しいですね。ただし、デフレ時のように「モノの値段が徐々に下がっていく」という気持ちは、だいぶ薄らいでいるでしょう。目標の17年度中に2%の上昇は困難かもしれませんが、いずれは達成するのではないでしょうか。

合理的な価格形成が市場では行われている

──今後はある程度のインフレも想定して資産運用を考えた方がよいということになりますね。市場の動向についてどのように分析していますか。

【吉野】例えば国内の不動産市場は上昇傾向にありますが、過去の上昇時と異なる点があります。06年から07年にかけても日本の不動産価格は上がりましたが、当時と比べると現在の上昇ペースは緩やか。また、バブル期は日本中どこでも価格が上昇する傾向にありましたが、現在は地域差が大きくなっています。上がる地域がある一方で、下がっている地域もあります。

なぜこのようなことが起きているのか。それは、金融市場などの行動原理が不動産市場にも定着してきたからだろうと思います。金融市場では、投資をする際にリスクと利回りの関係、さらに出口での流動性を重視します。これまでの不動産市場には、そのような発想があまりありませんでした。だからバブル期には、半年で価格が5割上昇するような事態にもなったわけです。しかし現在は、利回りを度外視して、価格上昇だけを当て込んだ無謀な投資は行われなくなっています。

資産の実力に見合った合理的な価格形成がなされている──。こうした動きは、動産も含めて他の投資対象にもいえることです。その意味では現在、見極める目があれば、長期で安定したリターンを確保できる可能性は高まっていると考えられます。